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先日、地上波で「君の名は。」見ました。
凄く素敵でした!
ディスク買ってしまおうか・・・
そんな「君の名は。」を見て堪らなくなって書きはじめたら全然違う物になった物です。
最初の注意文必読です。
・佐幸
・戦国
※1 「君の名は。」を見ての妄想。
※2 しかし原型は無い。
※3 原作の綺麗で美しい雰囲気を壊されたくない方はご遠慮ください。
※4 早和の書くものである事を了承の上ご覧ください。(重要)
ずっと自分には何かが欠けている気がしていた。
それが何かなのか、誰かなのかは分からないけれど。
兎に角何かが足りなくて。
訳の分からない胸を書き毟りたくなる様な焦燥を抱えて生きて来た。
真っ赤な夕日を見ると無性に泣きたくなるのに目が離せなくて。
陽が沈んでもその場に立ち尽くして遠い空をいつまでもいつまでも眺めていた。
そしてそんな時に胸を突くのが帰りたいと言う思い。
天涯孤独の己には帰る場所など何処にもないと言うのに、ただ漠然とそう思う。
誰か、何か、何処か・・・
胸を焦がす想いに焼かれてそのまま死ねたらいっそ幸せなのにと。
本気でそう願っていた。
【郷愁の詩 1】
携帯のアラーム音で目が覚めた。
いつもとは違う、何やらすっきりとした目覚め。
しかし違っていたのは寝起きの感覚だけではない。
目に映る光景も違っていた。
常ならばベッドの上で天上か、或いは部屋の壁が見える筈なのに。
今日は何故かリビングのテーブルの足が見えた。
自分はベッドではなくキッチンとの境の床に片膝を立て座りこむ形で眠っていた。
理由は分からない。
しかし確かにそうだった。
トイレにでも起きてこの場に座りそのまま眠り込んでしまったのだろうかと、そんな事を考えるが同時にこんな1Kの狭い部屋で?とも思う。
そもそも昨夜はトイレに起きた記憶もないが。
ずっと長い夢を見ていて――
そう、夢を見ていた。
不思議な夢だった。
詳細を思い出そうとしたが、目覚ましのスヌーズ機能が働いたのか再びアラーム音が鳴り意識が現実に引き戻される。
疑問は多々あれど取り敢えずそれを消さねばならぬ。
身体を起こしてゴトンと重たげな何かが落ちる音が聞こえ、その音にまず驚き、それから落ちた物を見て二度驚く羽目になった。
重たげな音の正体。
己の足元に落ちていたのは、包丁だった。
何故こんな物が!?
思わず後ずさり、狼狽える間もアラームは鳴り続ける。
「あぁ・・・、もう、くそ!」
誰に向けるでもない悪態をつき、取り敢えず包丁をテーブルに置いてアラームを止める。
しかしアラームを止めただけでは音は止まず、何かと思えばクラスメイトからのラインが続けざまに入って来ていた。
「何だよ、こんな朝っぱらから・・・」
ラインは全て一人からのものであった。
その人物は中学からの知り合いで、それなりに親しくはあるがモーニングコールをする様な相手ではない。
何だと思い開いてみると、メッセージは今届いた物だけではなくそれ以前にも大量に届いていた事にそこで気づいた。
未読の最初は前日らしき夕方から。
慌てて内容を見てみると、それらは全て学校の無断欠席を心配するものだった。
急にどうしたのかと、体調が悪いのかと。
「・・・無断、欠席?」
全て読み終え不思議に思う。
自分は昨日も普通に学校に行った筈だった。
そこで携帯の日付を見て気付いた。
自分が記憶しているものより日にちが一日ずれている。
「は!?何で!?」
もしや自分は丸一日眠っていたとでもいうのだろうか。
そんな馬鹿なと携帯が壊れた事を疑いテレビを付けても、慌てて新聞を取りに行っても、時報を聞いて見ても結果は同じだった。
やはり一日ずれている。
本当に丸一日眠っていたと言うのか。
この自分が。
あり得ないと脳が否定をするが事実がそう突き付ける。
訳が分からない。
分からないと言えば先程の包丁もそうだ。
あれは何だったのだろうか。
丸一日眠っていたと言うなら寝ながらキッチンへ行き包丁を取り出しあの場所に己は座りこんだのか。
何だそれは。
夢遊病間者か。
或いは強盗でも部屋に入って来たのだろうか。
包丁はそれに対抗しようとして握り締めたか。
恐怖で記憶喪失・・・と言う可能性は己には低そうだが、もみ合って頭を打ってと言う事ならありそうだ。
特に体に痛む所は無いのだが。
それでもまだその可能性の方が有り難いと部屋が荒らされていないか、他に何か不審な点や変わった点は無いかと辺りを見廻す。
特に大きな変化は無いが、本棚と机の上が少し乱れている様な気がした。
強盗ならば一番探すであろう鞄の中の財布はそのままの状態で中身も特に変わりはなかった。
金目的の強盗ではないのか。
ならば本当に夢遊病?
恐る恐る唯一変わったと見られる机の上を散らばる物を捲り退かして確認して見ると、端に置かれたメモ帳に謎の文字が書かれているのを見つけてしまった。
書かれていた文字は己とは筆跡が違う。
これはどちらになるのだろう。
金に興味が無い他人が入り込んでからかい目的で書き残したか。
それとも夢遊病間者は筆跡も変わるのか。
ともあれそのメモを見てみると、文字は酷く読みづらい物だった。
汚い訳ではないのだが、達筆すぎると言うか何と言うか。
言うならば古文や歴史の書物で見るような昔の人の様な書き方なのだ。
それでも何とか読み下せば書いてあるのはどうやら暦と名前の様。
「天、正・・・十九年、猿・・・飛・・・佐助・・・?」
天正と言うのは聞いた事がある。
先日クラスメイトに無理やり進められてダウンロードさせられた戦国物の携帯ゲームの中に出て来た気がする。
しかし暦を書くならどうせなら西暦で書いてくれれば分かりやすいものをと思いつつ戦国の言葉にふと夢の事を思い出す。
先程目覚めるまで見ていた夢。
もしやと思い天正の時代について調べようとスマホを手に取った瞬間、再度ラインの新着を告げる音が鳴る。
少々鬱陶しく思いながらも開いてみればそこには先程返事をしなかった為か同一人物からやはり体調不良を心配する言葉が書かれていた。
それだけなら兎も角倒れていたり何かあったりしていないか心配だから今日学校に来なければお見舞いに行くとまで書かれていて頭を抱える。
正直家に誰かが来るのは余り好ましくない。
否、特に理由がある訳ではないのだが、心情的に。
「あぁ、くそ・・・!」
今度は対象のある悪態をつき取り敢えずスマホを机の上に戻す。
面倒だが仕方がない。
顔を洗い制服を着て髪をバンドで止めただけの適当な準備だけをして時間割も気にせず昨日の、否一昨日のままの鞄を引っ掴んで外に出る。
スマホだけは忘れない様きつくその手に握り締めた。
昨日は雨でも降ったのか外に出ると道路は僅かに濡れていた。
己の記憶にある前日は曇りだった。
そして予報が次の日の雨。
本当に一日記憶が抜けているらしい。
太陽の光を反射し眩しい水溜りを飛び越え駅へ向かい、電車に揺られながらスマホに打ち込む文字は決まっている。
先程の天正時代についてだ。
そこには日本の元号の一つであり、元亀の後で文禄の前の1500年代後半の戦国時代辺りだと書かれていた。
ついでに画像を検索して当時の景色を見てやはりと思った。
今朝見ていた夢も丁度その頃合いだった、と。
そうして見ていた夢を思い出す。
夢の中でもやはり自分は目が覚める所から始まった。
しかし場所はおかしなもので、何故か自分は木の上にいた。
まず何故こんな所にと理由を疑問に思い、それからおかしな格好が目に付いた。
昨夜は寝間着としているラフなトレーナーとズボンで寝た筈なのに、今自分はテレビやゲームで見る様な変なごつごつとした籠手と胴回りを身に付け、その下には細い鎖を編んだ服を着込んでいた。
それらを隠す様に上から被った緩めのポンチョに似た布は迷彩柄だ。
下に履いているズボンらしきものも。
何だか自衛隊みたいだと思ったが彼らはこんな籠手や脛当てはつけていない筈だ。
そしてヘルメットや帽子もかぶっていないし。
代わりに自分の頭と言うか顔には鉄の四角い囲いが当てられていた。
何だこれはと全身を眺め、それから立って辺りを見廻す。
異様に目がよくなったのか、木の上と言う高い場所である事を差し引いても随分と遠くまでよく見える事に驚く。
眺め見た景色は世界遺産の集落を思い起こさせるような古い家が彼方此方にあり、その周囲は山だらけ。
それは将に先日始めたゲームの背景の様だったので、触発されてこんな夢を見たのかと思った。
極稀にだが夢の中でこれが夢だと気付く明晰夢と言う物がある。
きっとこれはそれなのだと思ったのだ。
そんな事を考えていると不意に声を掛けられた。
「佐助ー!何だ、そこにおったのか!」
呼ばれた名前。
何の違和感もなく振り返ってしまったが、自分は木の上に居た事を忘れていた。
普通の地面の時の様にすれば細い木の枝の上、足を滑らせるのは当然で。
そのまま体は中空へと投げ出される。
「「「!?」」」
驚いたのは自分だけでなく声を掛けて来た相手も同じだったようで再び佐助と叫ぶ声が聞こえた。
しかし心配する必要は全く無かった。
不思議な事に自然と体は無意識に動き、くるりと一度回転したそれはしっかりと地面に足を付け問題なく着地していたのだ。
まるで猫の様に。
「大丈夫か!?」
「あ、うん・・・」
「長が足を滑らせるなんて、雨でも降るんじゃないですか!?」
近づいてきていたのは声を掛けた青年だけではなかったようで、その後ろに同じぐらいの年代の男がもう一人ついてきていてそう言った。
長、とは恐らく自分の事なのだろう。
取り敢えずおかしなことを言わぬ様に。
対応は慎重にせねばならなかった。
伺い見ると自分を長と呼んだ青年は同じような服を着ていた。
一方最初に声を掛けて来た方の青年は見るからに上質の着物を着ている。
腰には刀を差している所から見ても恐らく武士。
つまり己らの上司に違いない。
「大丈夫ですよ。ちょっとぼーっとしてただけですから」
「ですから?」
「どうしたんです?急に畏まった喋り方して・・・」
長らしくないとあっさり言われる。
親し気だが上司相手だからとそれなりの言葉遣いにしたつもりだったが、普段の佐助は随分と主相手にフランクな話し方をしているらしい。
「あ、や、えーと・・・気分?」
取り敢えずそう言って誤魔化すが、胡乱気な視線を向けられる。
「何か今日長変ですよ?」
「別に普通だっての」
「いーや、絶対変です!幸村様との約束放っぽらかしてこんな所にいる時点でおかしいです!」
「約束?」
鸚鵡返しすると忘れたんですかと非難の声をかけられ思わずたじろいだ。
知らないんだから仕方ないだろと言いたいが勿論そんな事言える訳が無い。
すると幸村と呼ばれた主の方が心配げに此方を覗き込んできた。
「お前、疲れておるのではないか?」
「いや、その・・・」
大丈夫だと言おうとした。
しかしここで否定すれば自分は彼との約束を果たさねばならなくなるだろう。
その約束の内容が分からない身としては肯定して約束を取り消しておいた方が無難な気がする。
別にたかが夢で不審がられようが気にする事では無いのかも知れないが、何となく気を使ってしまうのは何故なのか。
「あー・・・そうかも・・・」
故に後者を選んだ回答をしたのだが、すると二人の目がまん丸に見開いた。
今気付いたがこの二人、何となく容貌が似ている気がする。
「佐助が言うなど余程であろう。今日は休め。元々休みであったのだ」
「でも幸村様、今日は久々に二人で遠乗りに行くんだって楽しみに・・・」
「良いのだ。そんな物はいつでも行ける。それより佐助の身体の方が大事であろう。だから休め」
考えて選んだ選択だったが、即座に後悔する羽目になってしまった。
寂しそうな表情に何故か胸が締め付けられる。
幸村と名前を聞くと尚更それは酷くなった。
この人にこんな顔をさせてはいけない、させたくない。
何かを言いたくて、しかし何を言っていいか分からず言葉が出ない。
もどかしさに思わず胸の辺りの布をわし掴むと。
「あー、もう!」
それを打ち破ったのはもう一人の恐らく部下の溜息だった。
「分かりました!今日は長はゆっくり休んで下さい。それで明日もう一日お休みあげますから今日の埋め合わせをする事!」
え、と思わず振り返る。
それは幸村の方も同じで。
「小介、だが・・・」
「長の仕事は僕らでどうにか回します。分担すればどうにでもなりますから心配しないでください」
小介と言うらしい似た顔の青年を振り返り恐る恐ると言った様子で彼を伺っていた。
「幸村をそんな顔のままにさせておけませんからね」
「小介、すまぬ!」
「その代わり、幸村様は明日の分の仕事を今日片付けられる分だけでも片付けておく事!」
「相分かった!」
歓喜に満ちた幸村が小介に抱きつく。
それを見て妙に腹が立ち思わず間に入って二人を引き剥がすと呆れた視線を向けられ我に返った。
完全に無意識だった。
しかし抱きついた事か、或いは小介が幸村を笑顔に変えた事か、どちらにかは分からないが兎に角許せないと思ったのだ。
「フォローした優秀な部下にこの仕打ちですか」
結果気分を害したと言うより拗ねたらしい小介に背中を蹴られたのは自業自得としか言いようがないが。
それでも去り際に。
「とっとと今日は寝て下さい」
そんな言葉を投げて来る当たり彼の気遣いが伺える。
幸村の方もそんな小介を追っていく。
恐らく先程言っていた明日の分の仕事を片付ける為だろう。
「ゆるりと休めよ、佐助。明日楽しみにしておるぞ!」
先程と違い嬉し気な様子にまた違う意味で胸がざわめいた。
そうして二人が去り、漸く一人になって思わず零れた安堵の息。
取り敢えず一息つく事は出来たがそれでもまだ夢は終わった訳ではなかった。
一体何なのか、この夢は。
妙にリアルだし蹴られた痛みもあるしいつになったら覚めるのか。
痛みは蹴られた背だけではない。
胸の痛みもそうだった。
幸村の約束を断られ残念そうな顔を見た時の。
あの人にあんな顔をさせてはいけない、させたくない。
そんな強い思い。
この夢がいつまで続くのかは分からないけれど、もし明日まで続くと言うならば明日こそは一緒に彼と出掛けなければならない。
その為に、身体を休めるにしても情報収集するにしても部屋に戻らねばならぬと思った、のだが。
「・・・部屋って、何処だ?」
当然この場所に覚えなど無い。
部屋の場所など解る訳が無い。
一難去ってまた一難。
再度途方に暮れ一人佇む事になった。
しかしいつまでもこの場に佇んでいた所で現状は変わらないので一つの策を弄して現状を打開する事に成功する。
その策とは、人に案内させると言うものだった。
勿論馬鹿正直に場所を聞いたりはしない。
そんな事をしては当然の如く不審がられるだろう。
己の部屋は何処ですか、と聞くなんて。
だから辺りを歩き声を掛けて来た部下らしき者に、部屋にある物を取って来てくれと頼んで後を尾ける事にしたのだ。
結果は大成功。
見事山間に隠れるような小屋の一つの部屋に辿り付く事が出来た。
尾行なんてこれまでした事は無かったが先に木から落ちた時同様これも自然と体が動いた。
部下には自分も用を思い出したから戻って来たと嘘を吐き、人払いをして色々調べようとしたが部屋は驚く程殺風景で何もない。
四角い部屋に茣蓙の様な物と着物が入った小さな籠、それから机替わりらしき箱が一つ端に置いてあるだけ。
書物か何かがあればと思ったのだが、想像以上、と言うより逆の想像以下の事態に脱力した。
仕方なく情報収集は諦め代わりに現在の状況を整理しようと部屋の中央に座りこんで思案に耽る。
自分の名は佐助。
佐助は小介や先の男らの集団を束ねる長をしている。
身体能力は異様に高く、五感も鋭い。
跳躍一つをとっても先程試してみた所身体は羽の様に軽く感じた。
しかし身軽であってもやせ細っている訳ではないらしく、腹筋は割れているし二の腕の筋肉も中々のものだ。
そして体は見える腕や上半身だけでも随分と傷だらけの様だった。
主の名は幸村。
綺麗な顔立ちをした、背格好は恐らく十代後半。
高校生の自分と同じくらいの年に見えたが、その表情は幼く見えたから実年齢は分からない。
嬉しそうに佐助と呼んだり、心配そうに覗き込んできたり、耳があったら垂れているのではと思う程分かりやすく落ち込んでみたり。
態度や表情だけを見ればまだ中学生程と言われても納得してしまいそうだ。
そのころころ変わる表情を思い出して佐助は思わずふっと頬を緩める。
何だろう、この気持ちは。
先の様に胸が締め付けられる様で、でも何処か温かくも感じる。
会えば取り繕うのが大変だと分かっているのに早く明日になってまた会いたいと強く願う。
遠乗りと言っていたが何処に行くつもりなのだろうか。
その時まで夢は続いているだろうか。
思いを巡らせるうちに睡魔が訪れ自然と体が床に落ちる。
記憶は途切れ、そしていつもの携帯のアラームで異質な目覚めを迎えたのだった。
そう言えばあの人は、と思い立ち夢の中で聞いた名を新たにスマホに打ち込んだ。
ゆきむら、と。
予測変換で即座に幸村と漢字が出て来てそれだけで心臓が音を立てる。
先の暦を調べた時とは大きく違い、妙に胸を高鳴らせながら検索のボタンをタップすると、1秒もかからぬ内にずらりと白い画面に文字が並んだ。
そしてその一番上に出て来た文字に目を奪われる。
あぁ、そうだ。
聞いた事がある、
歴史上の名は真田信繁。
天正の戦国時代で幸村と言えば彼、真田幸村しかあり得なかった。
何故思い至らなかったのかと後悔し、緊張しながらそのリンク先をタップしようとした――その時。
「さーっちゃん!良かった~無事だったか~!」
どんっ、と背後からの激しい衝撃があり体が前に押し出される。
思わず咽て振り返ると背に圧し掛かっている大きな男。
「前田、重い。あとその呼び方止めろっていつも言ってるだろ」
溜息交じりに首に巻き付く腕を外して巨体を押し退ける。
あの夢の中程の筋肉がある体ならいざ知らず、しがない高校生の標準体形で180越えの大男を支えるのは骨が折れる事だった。
それ以前に自分がそう言ったスキンシップ自体を好まないと言うのも正直あるが。
閑話休題。
彼はクラスメイトの前田慶次。
彼こそが昨夜から大量のラインを送り付けて来た、もとい心配して送って来てくれていた人物だ。
中学からの付き合いで周りに馴染もうとしない自分を昔から気にかけてくれている親切な男ではあるのだが、人付き合いに興味がない側としては正直な所鬱陶しいと言う気持ちがある事も否めない。
しかしそんな此方の思惑など解しもしない慶次は続ける。
「つれないねぇ。昨日からずっと心配してたってのに・・・何しろいくらラインしても返ってこないし電話しても出ないしさぁ。具合悪くて倒れてるんじゃないかとか事件に巻き込まれたんじゃないかとかはたまた神隠しにあったかもとか!」
「神隠しって・・・」
突拍子もない言葉に思わず呆れるが慶次は至って本気の様だった。
「だって、さっちゃんって何かちょっと浮世離れしてるって言うか、いつも心此処に在らずって感じでさ。ふっとどっか消えちゃいそうな感じするし」
言われて思わず言葉を失った。
適当に見えて妙に鋭い男だ。
確かに、いつも違和感を感じていた。
自分の居場所は此処では無いような。
では何処かと聞かれても答えられはしないのだが。
そんな気持ちをいつも抱えていた。
此処では無い何処かへ行きたいと。
誰かの元へ。
その誰かは分からない癖に。
そこまで考え浮かんだのはあの夢の風景だ。
いや、風景ではなく実際はあの夢の中の人。
幸村の元へ・・・
早く、どうかと、切に願う。
その焦燥がもどかしく、結局学校へは行ったもののその日は教室には足を踏み入れず一日屋上でさぼってしまった。
授業をさぼり一日屋上で何をしていたかと言えば、死角に入る塔屋の上で只管スマホでの検索だ。
調べていたのは当然の如く真田幸村について。
幸村と言う名は後世の創作で付けられた名前らしいが、物語は思っていたよりも多くの物が存在していた。
そしてその中に「佐助」の名前も出て来て驚いた。
猿飛佐助。
彼は真田幸村を支えた忍の集団の一人らしい。
当然想像上の人物とされているが自分は夢で恐らく彼になっていた。
あの変わった装束も異様に高い身体能力も忍と考えれば納得が行く。
長と言うのは忍隊の長か。
思わず帰りに本屋で佐助の出て来る本を買って読み耽れば小介と言う名前も出て来た。
ならば他の8人もあの夢の世界で出て来るのかも知れない。
憶えておこうとその名前を繰り返す。
それにしても、と不思議に思ったのは幸村の自分に対する態度だった。
テレビで見るものもそうだし、実際この購入した小説でも忍の身分は武士と比べると相当低いものであるのに夢の中の幸村は随分と親し気だった。
自分と出かけられないだけでしょんぼりと見て分かる程に気落ちしたり。
「そう言えば・・・」
ふと思う。
あの後自分の夢は覚めてしまったけれど、叶うならば遠乗りの約束を叶えてあげられたらよかったのにと。
もし夢が続いていたらと考える。
小説の真田幸村は年齢は様々だが武士と言うだけありかなりしっかりした性格をしているものが多く見えた。
一方夢の中の幸村は随分と幼気だったから。
きっと朝一で駆けて来るのだろう。
佐助の部屋に。
「佐助、体調はどうだ!?ゆっくり休めたか!?遠乗りには行けそうか!?」
そう大声で叫んで。
容易に想像がついて思わず手にしていた本で口元を押さえて笑いを堪える。
あぁ、またあの夢が見たいと、彼に会いたいと強く思っている内に自然と瞼は落ちて行った。
「佐助、体調はどうだ!?ゆっくり休めたか!?遠乗りには行けそうか!?」
ドタバタと激しい足音で佐助の意識は浮上した。
幸い幸村が扉を開ける前には起き上がっていたが、自分の身に起きた事が理解出来無かった。
体調?
休めた?
遠乗り?
いや、遠乗りは以前から約束していたから勿論行けるが。
理解が追いつかない事態。
これは一体何事だと佐助は冷汗を流した。
→2
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。