愛嬌、愛らしさ、懸命
静かな思い
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1年半以上前なのですが、昔差し入れ用に「仔猫のワルツ」をコピ本にしてその際に書き下ろした番外編です。
・佐幸
・現代
【狼の聞く狂詩曲】
元親は最近凄い人間に出会った。
暴走族と揉めて怪我をし、道端に倒れていた見知らぬ男を助ける様な人間だ。
おまけにそんな不審人物を家で手当て介抱し、暫く匿っていたらしい。
家に帰れないおかげでほぼ一文無しをだ。
信じられない。
余程裕福な余裕のある変わり者かと思いきや、聞けばその人間は自らの生活もいっぱいいっぱいの苦学生との事。
どんなお人好しだと元親は思った。
それだけではない。
その人はその男が起こした諍いが誤解が原因と知るや、問題解決に族の本拠地に自ら乗り込んでくる大胆振り。
豪気かつ豪快な性格と行動力。
パッと見は可愛らしい顔の何処にでもいそうな少年であるのに。
凄いとしか言い様がなかった。
しかし凄いのはそれだけではない。
彼は一人の男を見事に変えてしまったのだ。
その男とは猿飛佐助。
元親が――正確には弟分達が誤解から諍いを起こした相手である。
つまり少年が助けた相手だ。
佐助は元親が知る限り人と馴れ合う事を好まない人間であった。
人当たりはいいが人がいいとは思わない。
一定以上は深入りはしないしさせない。
ビジネスライクと言う言葉がピッタリな男であった。
しかし腕は確かで信頼は出来る。
そんなさっぱりとした所が元親は気に入っていた。
しかし、そんな男が今や。
「ちょっと、旦那!肉ばっかりじゃなくて野菜もちゃんと食べなさいっていつも言ってるでしょ!」
「むぐっ!」
少年の手中のお碗を奪い取り、ひょいひょいと野菜を入れていく。
勿論魚も。
熱いよと注意して返した後は少くなったご飯を盛り、お茶を注いで至れり尽くせりである。
美味いと笑う幸村に満足気な笑みを浮かべるその表情は今にも溶けそうだ。
正直あてられてしまう。
今、三人は元親の家で鍋パーティーをしている最中であった。
始まりは元親が知り合いの漁師に魚貝を山ほど貰った事で、その日偶々会った二人に一部を分けてやると言ったのがきっかけだった。
その量の多さに佐助はどう調理しようかと悩んでいたので、冬は鍋だろうと助言した。
そう言った所、幸村がぽそりと言ったのだ。
鍋など初めてだ、と。
最近でこそ一人鍋などと言う言葉もあるが、鍋はどちらかと言えば多人数でする事が多い。
ずっと独り暮らしであった幸村は縁が無かったと言う。
そもそもそんな多くの具材を購入する余裕も幸村には無かった。
故に鍋などした事がなかったのだそうだ。
ならば一人暮らしを始める前は?
家族ではやらなかったのだろうか。
聞いてみても幸村は曖昧に笑うだけで。
詳しくは知らないが、佐助に少しだけ聞いた所によると彼は実家とは縁が遠いらしい。
その瞬間、元親と佐助の心は一つになった。
鍋パーティーが決定した瞬間であった。
しかし、これは以前の佐助なら絶対に有り得ない事であった。
幸村と出会う前の佐助は鍋どころか元親が頼んだ仕事明けに礼を兼ねて飲みに誘っても十に一度乗るかどうかと言う様子であった。
何故そんなに嫌がるのかと聞いても、寧ろ何で一緒に食べるのかと聞き返されたぐらいである。
そんな彼が一緒に鍋を囲み、丁寧に栄養を考えて具を取り分けてやる姿など誰が想像出来ただろうか。
幸村曰く、佐助は家でもこんな感じらしい。
幸村は基本焼くしか料理が出来ないので、食事は佐助が専ら担当なのだそうだ。
そう、家。
実は今日聞いた話なのだが、驚いた事に二人は今も一緒に暮らしているらしい。
もう匿う必要はなくなったのに、だ。
それは佐助が言い出した事で、剰え延長的に幸村の家に住み着くのではなく、佐助の家で暮らしているのだと。
つまり、幸村を引っ越しさせてまで自分の家に住まわせているのだ。
これまで佐助が人の家に行ったと言う話を元親は聞いた事がなかった。
元親も知り合って何年も経つが、それでも家に来たのは今日が初めてだったりする。
そんな彼であるので自分の家にあげる事など断固拒否していた。
それが同居を提案するなどと。
変われば変わるものである。
最初はとても信じられず、暫くの絶句の後何度も本当かと確認してしまった。
そんな元親に過去の佐助を知らない幸村はキョトンとし、自覚があるらしい佐助は照れくさ気に頬を掻いていた。
その上で愚痴を言う。
「だって親ちゃん、あの家マジで危ないんだって!」
そう力説する。
何やら幸村の住んでいたアパートは鍵もかなり昔のもので、本職でない佐助でもヘアピン一本で簡単に開けられるのだそうだ。
加えて幸村の不用心加減。
「どんなに言ってもカーテンつけないし、合鍵平気でポストに入れようとするし偶に鍵掛け忘れるし!」
「しかし、家に盗むようなものはないのだから…」
「甘いよ旦那!今は情報だって立派な財産なんだよ!?」
「じょ、情報?」
「そう!盗聴機しかけられて日常生活知られてそれをネタに脅迫とかだってあり得るんだから!」
旦那お金ないからって変なバイトとかさせられてビデオ撮られてそんな事態になったらどうするのお願いだから俺様の家にいて!
佐助の剣幕に押されて流石の幸村も口を噤んでいた。
「あー…まあ、確かに物騒な世の中だしな」
元親が見兼ねて言葉を発せば幸村は困り顔を浮かべた。
曰く、ならばせめて家賃を払おうと思うのに受け取ってもらえないと。
律儀な彼らしい言い分だ。
「別にこいつがあんたといたくて呼んだんだから気にしなくていんじゃね?」
「しかし、あの様な広くて立派な家…しかも部屋まで貰ってしまって…」
「無駄に広くて部屋余ってんなら使ってやればいいって」
元親の援護にそうそうと佐助が頷く。
自分は第三者で口を出す立場ではないかも知れないが、幸村の行動に一喜一憂する佐助が微笑ましくて何だか応援したくなるのだ。
今日見ていて思ったが、以前の佐助より今の佐助の方が人間らしくて元親は好ましいと思う。
幸村には是非とも佐助と一緒にいてほしい。
否、一方だけではない。
幸村も。
「しかし、余り甘えすぎるのは…」
「こいつが甘やかしたいってんなら好きにさせときゃいいんだよ」
「そうそう!俺様が旦那を甘やかしたいんだから!存分に甘やかされちゃってよ!」
もっと寄り掛かってと隣の佐助が頭を抱く。
その瞬間、隣にいた佐助は気付かなかったかも知れないが正面の元親には見えてしまった。
幸村が擽ったそうに笑うその直前、一瞬だけ泣きそうに顔歪めたのを。
真面目で礼儀正しく、顔に似合わず苦労をしてきたらしい彼。
この年でと言うか、かなり昔から独り立ちと言うのは立派ではある。
しかし、それでもまだ未成年。
やはり何処か危うさも見えた。
必死に気を張っている様な。
その所為か佐助とはまた違う方向で人との関わりを拒む空気を感じていた。
それは一人で立てなくならない様にだろうか。
そこまでは元親には分からないけれど。
それが佐助といる時は変わるのだ。
戸惑いながらも己の壁の内側に入れる。
今みたいに。
佐助だけじゃない、幸村にも佐助は必要な存在なのだ。
そう思うと眩しくて、元親は酒を探す振りをして未だ寄り添う二人からそっと視線を逸らした。
それから冷蔵庫に追加を取りに行く態で席を立ち、そのまま台所でビール缶のプルトップを開ける。
リビングからは幸村の鼻を啜る音とそれに笑って佐助がティッシュを渡す光景が。
「熱いな」
呟いて、元親は今暫くとその場で缶の中身を一人煽ったのだった。
終
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プロフィール
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早和
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非公開
自己紹介:
戦国BASARAの佐幸と真田主従と武田軍と西軍大好きなBASARA初心者です。
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。
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