愛嬌、愛らしさ、懸命
静かな思い
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戦国最後の大戦おおいくさ。
敗北を喫し死の時を迎えた己の主、真田幸村は生き残った己に後追いを許してはくれなかった。
優れた忍のお前であれば市井で生きる事など容易いであろうと。
そう言って。
だから生きろ。
生きて太平の世を見届けろ。
この真田幸村の屍の上に成り立った世を。
そんな酷い最後の命を彼は下したのだった。
それからは最早地獄だ。
町を歩けば聞こえる太平の世への喜びの言葉。
人々は家康を賛美し、対比するように幸村を貶す言葉を吐く。
道端で木の下に座り込んだ、戦場で幸村を遠目に見た男とやらは人々に向けて紅蓮の鬼の恐ろしさと残忍さ悠々と語っていた。
こんな枯れ木に死体を吊るしてさぁ、なんて。
それは確かに事実だけれど。
たった一度、遠目に見ただけの、お前にあの人の何が分かると言うのか。
言ってやりたかった。
胸倉を掴み上げてやりたかった。
男の語るそれだって、向かって来た敵を掻っ切ったら勢いで吹き飛びそれが偶々木に引っかかったと言うのが真相だ。
目で見た一瞬だけを切り取り事実の様に語る愚か者が。
それよりも。
態々木に登って取った柿が渋柿で顔をしわくちゃにした情けない顔だとか。
木に登って降りられなくなった子猫を助けてやろうと登ったのに、伸ばした手を引っ掻かれて結局一人枝から落ちて唇を尖らせた不貞腐れた顔だとか。
自分が枯れ木を見て思い出すのはそんな子供みたいな顔ばかりで。
それが苦しくて目を瞑るのに。
そうすれば瞼の裏に焼き付いた笑顔が眩しくて目を焼いた。
全て家康様のおかげ。
豊臣も真田も落ちて漸く太平の世が来た。
そんな事を言う平気で輩共が蔓延る世界を何度ぶち壊してやりたくなったか知れない。
けれどあんたが見届けろと言ったからそれも出来ず。
唯一、せめてもの逃げ道か。
「世が再び乱れ、その治世をお前がどうしても許せなければ俺の代わりにその首を落としていい」なんて言っていたけれど。
世が乱れる。
その頃には徳川も既に代替わりをしていたし。
己も乱れた世なんて最早どうでもよくなっていたから。
結局終ぞそうすることはしなかった。
あんたはきっとそれすらも視野に入れてあんな事を言ったんじゃないかと今になって思う。
そう言う所ほんとズルいよね。
昌幸様の血を引いてるって心底思うよ。
世間じゃ猪突猛進な弟は冷静な兄と違って父君に似てない、なんて言われていたけど。
戦で勝つためにどんな奇抜な策も取り入れる所とか、突拍子もない所も。
あんたが父親の血を色濃く継いでた事、誰より近くで見てた俺様は知ってたよ。
時の流れは容赦なく。
この世から消えた存在は人々の記憶からも時と共に消えていく。
豊臣も真田も、話題にすら上がらない。
忘れられていく。
そればかりか人とは勝手なもので、世が乱れればあれだけ賛美していた徳川をも悪として見るようになった。
時代は変わる。
また戦は訪れ、国でのそれが終われば今度は外国と、と繰り返す。
本当に馬鹿みたいだと呆れてしまう。
でもそんなのはもうどうでもよかったから己は何もしなかった。
ただ見ていた。
見届けろとの命の通り。
徳川の名前なんて自分にはどうでもよかったし、あの人のいない世の中も同じだ。
それより許せなかったのは――
外国との戦が終わり漸く落ち着いたように見える今の世で。
ブームとやらで過去の武将が持ち上げられ始めた事だ。
他の奴らなんてどうでもいい。
けれどその中には当然の如く“真田幸村”もいて。
あれだけ戦国時代の権化だなんだと貶した癖に。
平和になればあっと言う間に忘れ去っていた癖に。
物語を読んだように、表層だけをなぞって陳腐な言葉で飾り立てる。
掌を返したような賛美の言葉に反吐が出た。
俺、歴史好きなんだよね。
そう路肩の木の下で語る男の姿に既視感を覚えて振り返れば、よもやあの時に戦場の幸村を恐ろしいと言いふらしていた男だった時の気持ちは形容するのは難しい。
生まれ変わりだと直ぐに分かる。
顔姿も、魂の形すら同じだと言うのに。
あの人を語る言葉だけがまるで違う。
許せない。
遣る瀬無い。
お前があの人の何を知っていると言うのだ。
貶す言葉よりも賞賛の言葉の方が許せないなんて不思議なものだ。
けれど、どうしても。
人々は家康を賛美し、対比するように幸村を貶す言葉を吐く。
道端で木の下に座り込んだ、戦場で幸村を遠目に見た男とやらは人々に向けて紅蓮の鬼の恐ろしさと残忍さ悠々と語っていた。
こんな枯れ木に死体を吊るしてさぁ、なんて。
それは確かに事実だけれど。
たった一度、遠目に見ただけの、お前にあの人の何が分かると言うのか。
言ってやりたかった。
胸倉を掴み上げてやりたかった。
男の語るそれだって、向かって来た敵を掻っ切ったら勢いで吹き飛びそれが偶々木に引っかかったと言うのが真相だ。
目で見た一瞬だけを切り取り事実の様に語る愚か者が。
それよりも。
態々木に登って取った柿が渋柿で顔をしわくちゃにした情けない顔だとか。
木に登って降りられなくなった子猫を助けてやろうと登ったのに、伸ばした手を引っ掻かれて結局一人枝から落ちて唇を尖らせた不貞腐れた顔だとか。
自分が枯れ木を見て思い出すのはそんな子供みたいな顔ばかりで。
それが苦しくて目を瞑るのに。
そうすれば瞼の裏に焼き付いた笑顔が眩しくて目を焼いた。
全て家康様のおかげ。
豊臣も真田も落ちて漸く太平の世が来た。
そんな事を言う平気で輩共が蔓延る世界を何度ぶち壊してやりたくなったか知れない。
けれどあんたが見届けろと言ったからそれも出来ず。
唯一、せめてもの逃げ道か。
「世が再び乱れ、その治世をお前がどうしても許せなければ俺の代わりにその首を落としていい」なんて言っていたけれど。
世が乱れる。
その頃には徳川も既に代替わりをしていたし。
己も乱れた世なんて最早どうでもよくなっていたから。
結局終ぞそうすることはしなかった。
あんたはきっとそれすらも視野に入れてあんな事を言ったんじゃないかと今になって思う。
そう言う所ほんとズルいよね。
昌幸様の血を引いてるって心底思うよ。
世間じゃ猪突猛進な弟は冷静な兄と違って父君に似てない、なんて言われていたけど。
戦で勝つためにどんな奇抜な策も取り入れる所とか、突拍子もない所も。
あんたが父親の血を色濃く継いでた事、誰より近くで見てた俺様は知ってたよ。
時の流れは容赦なく。
この世から消えた存在は人々の記憶からも時と共に消えていく。
豊臣も真田も、話題にすら上がらない。
忘れられていく。
そればかりか人とは勝手なもので、世が乱れればあれだけ賛美していた徳川をも悪として見るようになった。
時代は変わる。
また戦は訪れ、国でのそれが終われば今度は外国と、と繰り返す。
本当に馬鹿みたいだと呆れてしまう。
でもそんなのはもうどうでもよかったから己は何もしなかった。
ただ見ていた。
見届けろとの命の通り。
徳川の名前なんて自分にはどうでもよかったし、あの人のいない世の中も同じだ。
それより許せなかったのは――
外国との戦が終わり漸く落ち着いたように見える今の世で。
ブームとやらで過去の武将が持ち上げられ始めた事だ。
他の奴らなんてどうでもいい。
けれどその中には当然の如く“真田幸村”もいて。
あれだけ戦国時代の権化だなんだと貶した癖に。
平和になればあっと言う間に忘れ去っていた癖に。
物語を読んだように、表層だけをなぞって陳腐な言葉で飾り立てる。
掌を返したような賛美の言葉に反吐が出た。
俺、歴史好きなんだよね。
そう路肩の木の下で語る男の姿に既視感を覚えて振り返れば、よもやあの時に戦場の幸村を恐ろしいと言いふらしていた男だった時の気持ちは形容するのは難しい。
生まれ変わりだと直ぐに分かる。
顔姿も、魂の形すら同じだと言うのに。
あの人を語る言葉だけがまるで違う。
許せない。
遣る瀬無い。
お前があの人の何を知っていると言うのだ。
貶す言葉よりも賞賛の言葉の方が許せないなんて不思議なものだ。
けれど、どうしても。
あの時よりもっと激しい衝動は奥歯を噛んでも堪え切れない程だった。
だから一人になった所で裏路地に引き込んで言葉を奪った。
その口から二度と“真田幸村”の言葉が出ない様に。
あの人の幼さも、優しさも。
何も知らないお前らが、好き勝手に語り、満足したら忘れて去って。
その間、自分はずっと。
自分が。
自分だけが。
下らないやり取りも。
何気ない日常まで。
覚えている自分が。
どんな思いで――
殺してやりたい気持ちを何とか止められたのは最早奇跡に近かった。
呻く男はそのまま放置し表通りに戻る。
不良崩れの男が路地裏で殴られていた所でこの界隈では誰も気にも止めないから問題ない。
戦が終わり平和な世になった様に見えても本質は結局変わらない。
力を持つ者が好きに振舞い弱者が押さえつけられる。
世界はそう言うものである。
今もほら。
道の向こう、女が如何にもその筋に見える男に絡まれているが、誰も助けに入らない。
遠巻きに見ているだけだ。
まあそれも仕方ない事だ。
明らかな面倒事には誰しも巻き込まれたくはない。
本当にくだらない。
こんな世界の為にあんたは犠牲になったのかな。
思い、けれど己も興味はないと無視してその場を通り過ぎようとした、その横で響いた怒声。
「おぬし!嫌がっておるであろう!」
迷いもなく横を突っ切っていく、長い尻尾髪を靡かせた青年に目を見張る。
おなごに無理強いするなど男の風上にもおけぬ!
その凛とした声も。
真っ直ぐに男を見据える燃えるような瞳も。
あぁ、どうしてあんたはそうやって――
殴りかかる己より余程大柄な男をあっさりと投げ飛ばしてみせる。
そんな武勇伝もこの場にいる人たちの記憶の片隅にほんの一時のものとして存在するだけできっとまた直ぐに忘れられるだろう。
けれど佐助の中に深く刻まれた一節だ。
そこだけがきらきらと輝いて眩い。
忘れない。
忘れられない。
それは世界そのものだった。
終
だから一人になった所で裏路地に引き込んで言葉を奪った。
その口から二度と“真田幸村”の言葉が出ない様に。
あの人の幼さも、優しさも。
何も知らないお前らが、好き勝手に語り、満足したら忘れて去って。
その間、自分はずっと。
自分が。
自分だけが。
下らないやり取りも。
何気ない日常まで。
覚えている自分が。
どんな思いで――
殺してやりたい気持ちを何とか止められたのは最早奇跡に近かった。
呻く男はそのまま放置し表通りに戻る。
不良崩れの男が路地裏で殴られていた所でこの界隈では誰も気にも止めないから問題ない。
戦が終わり平和な世になった様に見えても本質は結局変わらない。
力を持つ者が好きに振舞い弱者が押さえつけられる。
世界はそう言うものである。
今もほら。
道の向こう、女が如何にもその筋に見える男に絡まれているが、誰も助けに入らない。
遠巻きに見ているだけだ。
まあそれも仕方ない事だ。
明らかな面倒事には誰しも巻き込まれたくはない。
本当にくだらない。
こんな世界の為にあんたは犠牲になったのかな。
思い、けれど己も興味はないと無視してその場を通り過ぎようとした、その横で響いた怒声。
「おぬし!嫌がっておるであろう!」
迷いもなく横を突っ切っていく、長い尻尾髪を靡かせた青年に目を見張る。
おなごに無理強いするなど男の風上にもおけぬ!
その凛とした声も。
真っ直ぐに男を見据える燃えるような瞳も。
あぁ、どうしてあんたはそうやって――
殴りかかる己より余程大柄な男をあっさりと投げ飛ばしてみせる。
そんな武勇伝もこの場にいる人たちの記憶の片隅にほんの一時のものとして存在するだけできっとまた直ぐに忘れられるだろう。
けれど佐助の中に深く刻まれた一節だ。
そこだけがきらきらと輝いて眩い。
忘れない。
忘れられない。
それは世界そのものだった。
終
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プロフィール
HN:
早和
性別:
非公開
自己紹介:
戦国BASARAの佐幸と真田主従と武田軍と西軍大好きなBASARA初心者です。
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。
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