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愛嬌、愛らしさ、懸命 静かな思い
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去年の七夕に書いたSSです。
実は他に嵌った「東エリ」と「あんスタ」と「バサラ」の三つで夏の大三角形の『デネブ』『アルタイル』『ベガ』をテーマに書いた中の一つです。
(バサラは『ベガ』でした。)










・佐幸
・現代、転生

※何でも許せる方向け





【ケルベロスは眠らせない】








大切な人を亡くした者が、どうかもう一度と再会を願い縋るのはどうやら神も人も同じらしい。

突然の雨。
雨宿りにと駆け込んだ偶々近くにあったプラネタリウム。
そこでは季節柄か七夕に関わる星についてを上演していた。
天の川を挟み、デネブ、アルタイル、ベガ。
夏の大三角の神話を語る。
その内の一つの話を聞いて佐助はそんな事を考えた。



それは最愛の妻を亡くした神がどうか彼女を生き返らせてくれと冥府に頼みに行く話。
佐助には気持ちがよく分かる。
自分とて行けるのならばとうの昔にそうしているから。

前世で死に別れたたった一人の己の主。
何より大切な佐助の全てとも言える人。
そんな彼を、今生で佐助は未だ見つける事が叶わずにいる。

彼に再び会う為なら何だってしてやるのに。
いっそ直ぐにでも命を絶てば冥府に行く事が出来るだろうか。
そこで冥府の神とやらに会えば彼を生き返らせてもらえるだろうか。
或いは神はいなくと地獄で彼に会えるかも知れない。
もういっそ会えずとも、少なくとも彼のいない無意味な生は終わらせられるならそれでもいいとすら考えて。

胸を巣食うのはそんな途方もない空虚ばかり。
それを堪える様に暗闇で一人頭を抱えるしかない。





そうして俯きどれだけの時間が経ったのか。
元より暇潰しではあったものの、結局星など碌に見ぬまま気付けば演目は終わっていた。
辺りは照明が灯り、既に疎らなった人影。
己もいい加減出なければと佐助は腰も重く立ち上がる。

そうしてロビーへ続く扉を潜ると、直ぐ脇に待機していた係員にどうぞと何かを手渡された。
長方形のカラフルな色の紙片は、恐らくロビーに置かれた笹に飾る短冊で。
日の暮れたこの時間こそ少ないが本来子供の多い施設だ。
季節行事に因んだ催しを行っている事は容易に察する事が出来た。

とは言え、常であれば佐助はこんなもの気にも止めない。
直ぐに捨てていただろう。
しかし今日は少し前に思いに耽っていた事もあってかそうする事が出来なかった。

手中の紙を無言で見る。
少し視線をずらせばロビー中央の笹の手前に置かれた簡素な台が見えた。
恐らく短冊を書く為のものだろう。
歩み寄れば上にはペンが並べられており、その正面にはこう書かれていた。
願いごとを書いてみよう、と。

言葉を飲み込んだ唇が歪む。

願いなど…
いつだって一つしかない。



会いたい。



あの人に。
願うのはただそれだけ。

思いに比例するように拳に力が入れば手の中の神がクシャリと音を立てて潰れた。
あ、と思い直ぐに開いたが既にそれは醜く歪んで文字を書く事も難しい。
まるでそれは願っても仕方が無いとでも言われている様だ。

自嘲し、用済みとなったそれを今度こそ捨ててしまうべく佐助はゴミ箱を探し顔を上げると。
その瞬間――背後で自動ドアが開いたのか雨上りの温い風がロビーの中を吹き抜けた。
その風は佐助の元にも届き隣の笹の葉がざわりと揺れる。
耳に届く葉擦れの音。
それに紛れて紙の擦れる音も響いた。
飾られた短冊が笹の葉と共に吹き上げられて揺れたのだ。

その一枚が佐助の目の前でゆっくりと翻った。

実際にはそれは一瞬だったに違いない。
けれど佐助にはそれが確かにコマ送りの様に緩やかに目の前を過ぎていくように見えた。

誰かの書いた短冊。
誰かの願い。

一際目を引く赤い色に思わず目を奪われる。



それは他の短冊の中でも異質であった。
子供達が拙い字で書いた長い願いの言の葉の中、そこに書かれていた文字はたった二つだけだった。
字もまるで習字の手習いのような達筆だ。
それだけでも他とは一線を隔している。

しかし佐助がその二文字に目を奪われたのはそれだけが理由では無かった。



その筆跡に見覚えがあり過ぎた。



達筆で、けれど勢いがあり過ぎるのかほんの少し右上がりになってしまう字は、自分でも模写が出来る程に何度も見た。

忘れない。
忘れる筈がない。
そんな字で、短く。

「会う」――と。

会いたい、でも。
会えますように、でもない。
会うのだと、一言。

誰に向けるでもない宣言は如何にも彼が選びそうな願いの形をしていた。



咄嗟に短冊を手に取れば僅かに指にインクが滲む。
書かれてまだそれ程時間は経っていないのだと。

思えばその瞬間に体は動き出していた










外は雨が上がり、風もある為か雲も途切れ空には星が覗いていた。
この梅雨の時期には珍しい。
しかし佐助の目にはそれすら映りはしなかった。

ただ前だけを見て走る。
後ろは振り返らない。
振り返る必要なんてない。
何故なら佐助の大切な人は、彼の神の妻の如く大人しく後ろを着いて来る様な性格ではないのだ。
追い越し、前を走り、その先で待ち構えている様な人。

真田幸村はいつだってそう言う人だった。



今もそう。
木々の生い茂る泥道を走り抜け、辿り着いた公園で悠然と立つ人影。

開けた視界の先で少し前に映像で見た三つの星が瞬いた。
天の川を挟み、デネブ、アルタイル、ベガ。

その下で仁王立ちで待ち構えるのは、ずっと会いたかった人。
その第一声は。



「ようやっと来たか、佐助!」



遅いぞと言わんばかり。
此方の切望など知りもしないで。



言いたい事は山ほどあったが今はどれも言葉にならない。

一年どころか四百余年振りの再会に、佐助は足元の水溜りが跳ねるのも構わずその小さな天の川を踏み越えて笑う幸村を抱きしめた。





END



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戦国BASARAの佐幸と真田主従と武田軍と西軍大好きなBASARA初心者です。
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。
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