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捕らわれ主従が書きたかったので書きました。
ちょっと痛い表現あるのでご注意下さい。









・佐幸
・戦国
・痛い表現有り

※何でも許せる方向け





【暗レ惑フ】







ざばりと水音が響いた。
顔に衝撃と一瞬呼吸を止められた息苦しさで目が覚める。
ぽたぽたと髪や顎を伝い床に落ちる滴。
頭から水を掛けられたのだと気付く。

目を開くとそこは薄暗い石畳の部屋であった。
否、部屋と言うには些か暗く空気もじめじめとして居心地は悪い。
当然だ。
ここは寛ぐための部屋ではない。
少し辺りを見廻せば此処がどんな場所かなど直ぐに分かる。
所謂地下牢と言うやつだ。
地下故に籠った空気の中でむせ返る血と鉄錆びの混じった臭いは、ここで普段何が行われているかを如実に示している。
捕らえた忍や敵兵から情報を引き出す為の拷問だろう。
佐助も当然経験がある。
最近では専らする側であったが、今日は違う。
こうしてされる側に回るのはどれだけ振りだろうかと佐助は思いを馳せる。
否、修行を覗けばもしかしたら初めてかも知れない。
敵に捕まった事など思い返せばこれまで一度もなかった。

そう、佐助は今敵に捕らわれた状態であった。
しかしそれは態とである。
この地下牢に入り込む為に。

「愚かですねぇ…忍が敵に捕まったらどうなるかぐらい知っているでしょうに…」

己を捕えた男が言う。
それは正論だ。
そんな事は知っている。
それでも佐助は躊躇わなかった。
己とあの人の身など、比ぶるべくもないのだから。





そもそもが己の失態だったのだ。
甲斐の国境付近に見えた織田軍らしき気配。
攻め込む訳ではないけれど、辺りを頻繁にうろついていたのがずっと気にはかかっていた。
警戒をしつつ相手の出方を待ち様子を見て。
そんな折、その付近の堤が破れると言う事態に陥った。
秋の長雨で自然と破れたのか、それとも何者かによって故意に破られたのか、それは知れない。
しかし対応は必要で、且つ織田の動きも気になった為に佐助は自らその場所に走ったのだった。
他の忍隊を連れて。
そうして手薄になった隙に上田が襲われた。
東山道沿いに裏をかいて進んでいた明智の兵を見落としたのは佐助の失態だ。
何故か奴らは城を落とす事が目的ではなかった様で、幸い城も城下も大きく荒らされる事は無く兵は直ぐに退いたらしいが。
替わりに幸村が浚われた。
佐助が戻った時には幸村も明智の軍もそこにはなく、兵らが平身低頭で幸村様をお守り出来ませんでしたと涙ながらに零すのみであった。
どうやら彼らは最初から幸村の身が目的だったらしく、城下を焼くと脅しをかけ幸村が怯んだ所を狙い捕えたらしい。
そして直ぐに立ち去った。
何故幸村のみを狙ったのか。
理由は分からない。
捕えた後も動きは見えず、武田の降伏も何も取り引きすらも持ち掛けられない。
結局何の為か分からないが、奪われたのならば兎に角取り返さねばなるまいと佐助が明智光秀が居城としている近江の城に乗り込んだのが幸村が攫われてから半日後。
城を探れば城内には幸村の気配はなく、どうやらこの城には地下がありそこに捕らわれているらしい所までは突き止めたのだが、そこに入り込む手立てが見つからない。
何人か兵や忍を捕まえて少々手荒く聞いてみたが誰も入口は知らないらしく。
地下に詰める忍は外には出て来ず、また外の忍も地下に行く事はないので入口は誰も知らないとの事。
知っているのは明智光秀ただ一人。
手っ取り早く光秀を問い質しても良かったが万が一先に殺してしまい地下に行く手立てを失ってはどうしようもない。
捕らわれた時、幸村は鎌での攻撃を受け怪我をしていたと兵らは言っていた。
怪我がどの程度かは分からないが救出を急ぐに越した事はないと、考えた結果、奥に入り込む手っ取り早い方法がこれだった。
態ととは言え捕まる為に攻撃を受ければ当然痛みはあるし、その後の忍が受ける仕打ちもまた然りだ。
それでもこれが一番早く確実だと思えば迷う道理は佐助には無かった。





首に鎖を掛けられて、天上の留め具を通して足が付くぎりぎりで固定される。
僅かでも身動けば首が閉まる寸法だ。
腕は後ろ手に鉄製の拘束具を掛けられ支えは足だけで。
この状態でご丁寧な敵忍としての扱いを受けて何刻か。
流石に異能の対策はしているようで、恐らく闇のお守りの様なものをこの牢の四方に仕掛けてあるのだろう。
此処に入ってから闇の力を使う事は出来無かった。
しかし佐助も忍の端くれ。
拷問には慣れている。
実際されるのは初めてだがさんざ修行で慣らされた。
師のそれに比べればこれぐらい。
そも、幸村の身を救い出す為ならどんな痛みであろうと佐助には二の次なのだ。

そう、第一はこの地下の何処かに居る幸村だ。
気配を探ると思った通り僅かにだが彼の気配を感じる事が出来た。
しかしこの近くではないのだろうか、思ったよりこの地下は広いのか。
気配はまだ弱く、遠く。
もっと奥だろうかと佐助が更に気配を探っていると。
光秀が佐助を嬲る手を止め前触れもなく語り出した。

「今回の上田襲撃はね、私の独断なんですよ」

そこに織田の意志はなく、故に武田と交渉する気も最初からなかったのだと光秀は言った。

「なのに何で、意味のないあなた方を態々捕らえたと思います?」

代わりに望む物も情報も無い。
要らないならば斬り捨てればいい。
それを敢えて生かして捕えたその理由。

「単純にね、苦痛に歪む顔が見たかったからですよ」

ただそれだけ。
実に彼らしい理由だった。

「ですが、忍の拷問程つまらないものはありませんね。声も上げない、顔にも出さない」

それは光秀も知っていた筈。
益々佐助を捕らえる意味はなかったが、それを翻したのは。

「まぁ、声を上げないのは主も同じでしたけれど」

首の鎖を引っ張られる。
上向かされた顔は、目を開ければ正面ににやけた光秀の顔が見えた。
吐き気を催す嫌悪感より、今は光秀の言葉が耳に残った。
彼は今何と言った?
主も同じだったと、そう言いはしなかったか。

「折角ですから、お望み通り会わせてあげましょう」

佐助の内心の焦りなど気にも止めず光秀はゆったりと佐助から離れ中央のひで鉢に火を乗せた。
浮かび上がる牢の輪郭。
そうして初めて、鉄の柵で仕切られた奥にもう一つの空間がある事に気付く。
その奥に見えた人影は。

「っ旦那!?…っぐ!」

思わず飛び出しかかり、鎖に動きを阻まれ首が締まった。
しかしそんな事には構っていられない。
人影に見覚えがあり過ぎる。
何しろ探していたその人なのだ。
幸村がそこにいる。
がしゃがしゃと鉄の音を響かせ佐助は暴れた。
しかし拘束は外れず距離が縮まる事はない。

「だ、んな!?おい!?」

呼びかけても反応は返らなかった。
こんな傍にいたのに気付かない程に気配が薄いのは。
その理由を想像するとぞっとする。

幸村は佐助と違い鎖では繋がれていない様だった。
代わりに手に杭を打たれて壁に磔にされている。
しかもご丁寧にあの杭は。

「お気づきですか?私の鎌から作ったんですよ」

特注品ですと光秀が笑った。
そんな事はどうでもいいが、問題なのはあれが恐らく鎌と同じ力を持っていると言う事だろう。
光秀の鎌はそれを通して闇の異能で触れた相手の生気を吸いとるものだ。
つまりあの杭もそう言う力を持っている。
幸村の磔にされた手の付近に闇の気配が渦巻いている。
あの杭から生気を吸い取られているのだ。
少しずつ。

「最初は爪を剥いだりそれらしい事をしてみたんですがね、呻き声一つ上げないのでつまらなくて…止めちゃいました」

代わりに逃げ出さない様死なない程度に弱らせて捕えておいたのは痛めつけるよりも面白そうな使い道を彼が思い付いたからに他ならない。
ざわりと佐助は己の肌が総毛立つのを感じた。
瀕死の幸村見て鳥肌が立ったのか。
それもあるかも知れないが、恐らくそうではなく、それだけではなく。
自分の中の何かが蠢く。
この感覚には覚えがあった。
遠い昔、それこそ幸村と出会うより前に周囲の人の皮を被った獣共に感じていた様な…

「ふっははは。いい顔ですね。そう言うのが見たかったんですよ」

拷問は肉体的なものだけではない。
精神的なものもそう称する。

「貴方には此方の方が効きそうだと思いましてね」

俯き佐助は笑う。
あぁ、こいつは…
人の痛い所を分かっている。
本当に、憎たらしいぐらいに。

そうして佐助を追い詰める様に光秀は佐助に選択を迫る。
このまま主が力尽きていくのを見守るか、或いは拷問の続きを目の前で見るかどちらがいいかと。
口の中に血の味が広がる。
歯を食いしばり過ぎて血が出ているのだろうがそんな事を気にしてはいられなかった。

ふっと細く息を吐いた佐助は後ろ手に拘束された手を背後で組み直した。
そして、己の右手で左手の親指を掴むと、力の限りそれを思い切り引きぬいた。

「…っ!」

身体の奥でゴキッと鈍い音が響いた。
骨が外れる音。
しかし痛みなど今は構っていられないし、寧ろ今は感情が感覚を凌駕して痛みなど感じない。
親指の間接を外して細くした手で左手の拘束具をまず外す。
それは手首にハメられていただけなので片方が外れれば直ぐに両腕は自由になった。
佐助の腕が自由になったのを見て周囲が突如ざわめいた。
それまでは光秀がいるからと姿を見せず影に潜んでいた忍達が一斉に動いたのだ。
けれど遅い。
佐助は間を置かずにそれを封じに掛かる。
自由になった手で頭を探る。
苦無や手裏剣、短刀などは当然捕らわれた時に奪われていたが、忍の武器はそれだけではない。
髪の中の仕込み針を抜き、周囲が動くより先に四方に放つと、喉、或いは目を一撃で突かれた忍達は佐助に飛びかかる事も出来ぬまま床に倒れ落ちたのだった。
同様に光秀に向けたそれはすんなりと避けられてしまったが、構わなかった。
忍や光秀はついでの様なものだ。
仕込み針で狙った本当の目的は彼らでは無い。
牢の壁に仕込まれた闇の守りだ。
闇の異能を封じるそれ。
付けた発火札がそれに突き刺さると同時に破裂し燃えて守りを消し去る。
そうして闇の異能が戻れば此方のものだった。
瞬間、ぞわりと床から壁から影が周囲を這い上り牢全体を包み込む。
ひぃ、と知らぬ声が叫ぶが影は止まらない。
壁を壊し、拘束具や鎖はまるで腐り風化した様に塵になって消えた。
忍達も皆飲み込まれた。
死んで床に落ちていた者も、生きて倒れ伏していた者も皆、だ。
周囲の物を全て飲み込み終えた影は直ぐに光秀に向かっていく。
光秀は飲み込まれはしなかったが衝撃を受けてそのまま吹き飛ぶ。
それでも影は光秀を離さず壁に押さえつける様に締め上げて。

「…あんたは、殺すよ…」

地を這う様な声が視線が、光秀を捕らえていた。

「ほう…これはこれは…」

しかし、光秀は締め上げられながらも受けているダメージは少ない様に見えた。
何故か。
思って佐助はハッと気づく。
奥の牢から僅かに聞こえた幸村の呻き声。
そうだ、まだ杭は刺さったまま。
光秀は受けたダメージを幸村から奪った生気で補っているのだ。
そうと分かった瞬間これまでにない怒りが瞬時に沸いた。
しかし先に幸村を助け出さねばとそちらに向かい影を飛ばす。
此方と向こうを区切っている策を壊し、そのまま幸村を捕えている杭も壁ごと壊す。
そちらに気が逸れた際、分散した影の力の弱まった所を突かれて光秀には逃げられたが、幸村は救出出来たので佐助はそちらには構わなかった。
壁と杭が消失し、支えを失い腕の中に落ちてくる体。
受け止めると冷たいながらも息はあり、ほっと安堵の息を吐いた。
生きている。
それだけで今は十分だ。

ぎゅぅと一度抱き締め、改めて光秀を見遣ると彼はやり合うつもりはないのか既に離れた地下牢の通路の奥で冷めた目で此方を見詰めていた。

「これ以上は面倒ですし、それは貴方にお返ししますよ」

本当に嫌がらせだけが目的だったのか、光秀はもう興味を失せた様にあっさりと言い捨てた。

「本当は、公が気にかけた男の息子だと言うのでどれ程かと思って試す意味合いもあったのですけど」

そうして本来の目的を告げる。
武田では無く幸村個人を狙った訳。
幸村の父真田昌幸は天下に知られる名将だ。
彼の信長もその存在は随分と気にしていたと言う。
その息子がどの程度か見ておきたかったとの事だが。

「蓋を開けたら馬鹿正直な上に民を人質に取ったぐらいで身動き取れなくなる様な甘ちゃんでしたし」

これなら公が興味を持つ事もないだろうと。
そう納得し、満足したからもういいのだそうだ。
本当に信長が興味を持つ様な人物か知りたかっただけなのか。
ただそれだけの為に私兵まで動かしてこんな事をしたのだろうか。
真田のみならず武田をも敵に回す危険を冒してまで?
普通であればあり得ない。
しかし彼なら有り得る気がした。
それ程に、彼が信長に向ける執着に似た感情は異質なものだ。

「それでは…御機嫌よう」

そう言って、光秀は通路の奥、闇の中へと消えていった。
彼方は佐助が連れて来られる時に通った地上への入口とは逆方向だが、もしかしたら隠された道があるのかも知れない。
或いは無いのかも知れないがそれは佐助にはどうでもいい事だ。
彼が生きて無事逃げ出そうが、このまま地下に潰されて死に絶えようが。
ただ出来れば生きていて欲しいと心から願う。
今はその後を追う事は出来無いけれど、いつか戦場か、或いは違う場でも構わない。
この手で嬲り殺してやる為に。



光秀の気配が完全に闇へと消えると佐助は漸く警戒を解いて全ての息を吐き出した。
もう、大丈夫だ。
これで終わった。
取り戻せた。

「旦那…」

万感の思いで佐助は未だ目覚めぬ幸村を抱き締める。
そうして二呼吸だけ思いを噛み締めると気持ちを切り替え佐助は幸村を抱えて立ち上がった。
早く彼を上田へ、安全な場所まで連れて行かねば。
佐助は幾分軽くなってしまった幸村の身体を抱いたまま地上への道を駆ける。
外は月明かりだけだと言うのに目を覆いたくなる程に眩かった。










そうして近江の城から脱出し、幸村が目覚めたのはそれから三日後の事だった。
と言っても実際は移動に二日掛かっている為上田に戻ってからは一日か。

行きは半日足らずで着いた道程に二日も掛かったのには訳がある。
と言うのは佐助も実はかなりの重傷を負っており、加えてかなり派手に力も使った為敵忍の生気を吸っただけでは到底足りず、疲労困憊で幸村を抱えて長時間の移動が出来無かったのだ。
途中各地に点在する忍小屋などに立ち寄り休憩を取りつつ上田に向かった為それだけの時間がかかってしまった。
佐助以外の忍が幸村を運べば恐らくもっと早くついたであろうし、その方が幸村の手当てが早く出来ると分かっていた。
けれどどうしても佐助は幸村の身を渡す気になれなかった。
例えそれが仲間の真田忍であろうとも。
部下達もそんな佐助の気配を察してか道中は距離置いて下手な口出しもしなかった。
多分自分は手負いの獣のように気が立っていたのだろう。
後日才蔵の言葉を聞けば、手負いの獣どころか更に子供を抱え守ろうとする母親の様で手が付けられなかったとの事であったが。
閑話休題。

漸く辿り付いた上田で典医を呼び手当てをして丸一日。
目覚めた幸村は佐助を見て開口一番何と言ったか。
今回の件は全て佐助の失態だ。
故に糾弾されて然るべきであろうに、彼の口から出た言葉はまず佐助の怪我を心配するもので。
おまけに、朦朧とする意識の中でも佐助の声は聞こえていたのだと、来てくれると思っていたと変わらぬ信頼まで向けられ佐助は思わず言葉を失った。

「捕まったのは己の甘さ故だ。佐助の責ではない」

そう言って、更なる鍛錬をと動き出そうとするものだから佐助は慌てるしかない。
冗談ではない。
怪我の具合も体力の面も、幸村は到底動ける状態ではないのだ。
特に手の怪我は一際酷い。
杭を打たれていた手の平の傷は貫通し、更に光秀の言っていた通り爪も何枚か剥がされていた。
暫く槍は持てないだろう。

丁寧に布を巻いた手を両手で包み祈るように佐助は押し頂いた。
拷問などと、彼をこんな目に合わせるつもりなんて一生なかったのに。
とんだ失態だ。
どんなに謝罪しても足りないのに、寧ろ幸村は言うのだ。
すまぬ、と。

「何で…あんたが謝るんだよ…?」
「お前達は日々この様な危険と隣り合わせの任務なのであろう?今回も、俺を助ける為にお前もそんな怪我を負うて…」

いつも有り難うと微笑まれて込み上げる熱い物に思わずぐぅと喉が鳴る。
そんなの、あんたの為なら命だって惜しくはないのに。
胸が締め付けられて息が出来無い。
佐助は薬を持って来ると言い訳をして逃げる様に部屋を出た。
あぁ、どうしてあんたはそうやって…
これまでのどんな拷問よりも、今が一番痛くて苦しいと佐助は胸を掻き毟りたい衝動を堪えた。








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戦国BASARAの佐幸と真田主従と武田軍と西軍大好きなBASARA初心者です。
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。
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