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愛嬌、愛らしさ、懸命 静かな思い
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ツイッターのフォロワーさんのお誕生日にあてたもの。

https://twitter.com/sayori_888/status/915532749234085888
↑この呟きの続きが気になると言って下さったのでその設定で続きを書いてみました。










・佐幸
・現代





【メリーポピンズ協奏曲】





佐助がバイトをしている蕎麦屋は駅から少し離れた所にある。
住宅街に向かう途中のその店は、仕事帰りのサラリーマンや学校或いは塾帰りの学生が主な利用客であり、その為早さと安さを売りにしている。
そんな庶民派であるその店は正直給料は余り良くない。
しかし幾つか掛け持ちをしているバイトの中で佐助は此処が一番好きだ。
週3回のシフトが待ち遠しいぐらい。
今の所、他のどのバイトを止めても此処だけは止める気がないとすら思っている程に。
その理由は。

そろそろ来る頃だなと佐助は壁に掛かる時計を見て思う。
バイトが楽しみな理由となってる存在。
きっともうすぐ訪れる。
思って入口を眺めているとガラガラと音を立てて引き戸が開かれた。

「旦那、いらっしゃい!」

暖簾を潜り入って来た思い描いたその人の姿に佐助は思わず微笑んだ。





佐助が待ち望んでいた彼は店の近くの道場に通う高校生だ。
道場には週3回程通っているらしく、家の間にあるこの店にもほぼ同じ程帰り際に寄るらしい。

佐助が彼を認識したのは一月ほど前。
掛け持ち先のバイト先で急病人が出た所為で急遽シフトを増やされ忙しく、おまけに連日夢見が悪い日が続き精神的にかなり参ってしまっていた時だった。
夢見が悪い、とは多少語弊があるかも知れない。
夢は恐ろしいとか悲しいとかそう言う物ではなかった。
しかし妙に気になって寝不足になっていたのだから良いとはとても言い難い。
そんな状態でこの店のバイトに入っていた時、余りに疲弊していたからかバイト中も何だかぼんやりしてしまい、注文を取る時にうっかりおかしな口調になってしまったのがそもそもの始まり。
恐らく夢が江戸だか室町だかの大河ドラマの様な時代だったのが要因の一つだろう。
ご注文お決まりでござるか、などと。
つい口走ってしまったのだ。
ハッと気づいた時には既に遅く、発した言葉は無かった事には出来ず周りはくすくすと笑っていた。
しまった、恥ずかしいと。
しかしその子は笑いもせず。

「某、ざる蕎麦を」

そう、佐助の失敗に乗る様に言ってくれたのだ。
それが彼だった。

蕎麦を持っていった時も同様に。
かたじけないと堅苦しい程に丁寧に受け取ってくれ、極めつけは清算のレジでの事だった。

「馳走になり申した。顔色が優れぬ様ですが、疲れておるのでは?ご無理は禁物ですぞ」

佐助の頬に触れて体調を気遣い。
ばいと頑張ってくだされと微笑み帰って行った彼。
触れられた頬が熱を持ち、恋に落ちるとはこう言う事かと佐助は思ったものだ。



そんな風に出会って以来、彼に会えるこのバイトが佐助は楽しみで仕方がない。
注文を受けてから食べて帰るまでの約二十分程度。
佐助も仕事があるから殆ど話すら出来無いけれど。
姿が見られればそれだけでも嬉しくて気分は不思議な程に舞い上がった。

中々話が出来無い分、偶にに彼の注文におまけを付けてみたりもする。
勿論店主には言ってあり、差額は佐助が後で払う。
彼は高校生だからかいつも一番安いざる蕎麦を頼む。
おまけの一番最初は出会った次の時で。
こないだのお礼だと言って海老天をつけてやったら傍目にも感動が分かる程に目を輝かせていたのが可愛かった。
以来偶にこっそりおまけを盆に乗せる。
偶になのは毎回それをすると彼が恐縮して申し訳なさ気な様子を見せたからだ。
大学の女子などは会う度に奢れ奢れと纏わりついて煩いが、今時珍しいおくゆかしい子なのだなと佐助は思った。
そう言う所もまた堪らず、いい所ばかり見える気がして恋とはそんなものなのだろうかと真剣に頭を悩ませたりもした。
違う面も知りたい、仲良くなりたい。
そう佐助は思うのだけれど、彼は話しかけると戸惑い気味で言葉少なく、若干困り顔なので佐助も中々踏み込めずにいる。

確かに彼の事は好きだがまだどうこうしたいとまでは行かず、どちらかと言うと癒しの様に思っている。
取り敢えず話が出来る友達になりたいと言うだけで、態度もそれを崩していない筈なのだが。
それでも迷惑だろうかと、悶々と思い悩んでいたある日、転機は突然訪れた。





それは秋口に多い台風が近づく風の強い日だった。
これから崩れる天気を気にしてか皆家路を急いで店はがらがら。
佐助がバイトに入り彼が来るまで客が一人も来ないと言う程の空き具合であった。
幸村が来店してからも食べ終わるまで誰も来ず、店主が佐助に今日はバイトは良いから一緒に帰ったらどうかと言ってくれたのだ。
因みに店主はちょくちょく自腹でおまけをつけてやる佐助と彼を既に友達なのだと思っている。
故にかこの強風の中子供一人を帰すのも危ないから送ってやってそのまま帰れと言ってくれたのだ。
実際には友人どころか名前すら知らない彼は当然遠慮をしたけれど、家は同じ方向で近いからと押し切った。
実際には然程近くはないと思われるが、取り敢えず店を出てから向かう方向は同じなので隠してそう言う事にした。
我ながら必死で笑ってしまうが折角のチャンスを逃す訳には行かない。

そうして初めて彼と二人で話をする機会を得て、佐助はまずあの時のお礼をしなければと思った。
思えばこれまではバイト中だからと此方から一方的に一言二言告げて偶に返事が返ってくる程度の会話しかしておらず、まともにお礼も言っていなかった。
改めてと出会いの時の話をしてお礼を言うと彼は慌てた様に首を振った。

「寧ろ此方の方が色々奢って貰ってしまっていて申し訳なく・・・」
「いいのいいの!お店で余りそうなやつを選んでるし、旦那、美味しそうに食べてくれるし」

その様子は佐助のみならず店主も見ていて喜ぶ程だ。

「育ち盛りだもんね」
「は、はい・・・」

もっと色々話をしたい。
しかし思いも空しく会話は途切れ、彼はそのまま俯いてしまった。
やはり年代の違う相手では話していても面白くないだろうか。
思いきって佐助は聞いてみる。

「あのさ、俺、旦那と仲良くなれたら嬉しいな~とか思ってるんだけど・・・迷惑かな?」

彼はパッと一瞬顔を上げ、その顔は嬉し気に見えた。
しかし直ぐにまた俯いて。
いや、あの、と歯切れが悪い。
何か理由があるのか。
あの一瞬の表情を見ると恐らく嫌われてはいない筈。
それに勇気を得て佐助が答えを待つと、彼は佐助に言わねばならない事があるのだとそう告げた。

「何?」
「実は、その・・・自分は口調がおかしくて・・・」
「別に、俺は気にしないけど」
「いえ、そうではなく・・・」

そして彼は意を決し、まるで懺悔をする様に。
言った。

「あの・・・、某の時代劇染みた口調は元からなのです!」

初めての時、佐助に返したのも佐助に気を使って乗った訳ではない。
特別優しい訳でもない。
ただ元々の口調で普通に返しただけなのだと。
彼はそう言い頭を下げた。

「だから、その様に言ってもらえる資格など、某には・・・」

ないのだと、悄気る彼に佐助は思わず呆然とした。
もしかして、佐助が話しかける度に困り気味だったのはそれを気にしていたからなのだろうか。
否、きっとそうなのだろう。
他に要因は思い付かない。
理由が分かれば思わず笑いが込み上げて。
何かもう、全てが可愛く見えて本当に困ってしまう。

だから佐助は違うのだと首を振った。
そうじゃないと。

「口調は何となく気付いてたぜ?」
「・・・え?」
「だって、最後のレジではもう二人きりだったし」

佐助に気を使ったのだとしたら周りに人のいなかったあの場面でもう口調を真似る必要はなかった筈だ。
加えて、こっそりバイト前に道場を覗きに行き、他の門下生と話している姿を見て知っていたと言うのは秘密だが。

「そうじゃなくて、体調を気に掛けてくれた事とか、失敗を笑わずにいてくれた事とかさ」

そう言うのが嬉しくて。
だからもっと話したい、仲良くなりたい。
ダメかな?と佐助が問えば、彼は漸く肩の力を抜いて。

「実は・・・某も、貴殿ともっと話してみたいと思うておりました」

はにかむ笑顔が可愛くて。
あ、やっぱり友達じゃ収まらないかもと佐助は内心思いつつ、取り敢えずそれはおくびにも出さず、まずは自己紹介と差し出された手を握った。

飛ばされたら大変だからと適当な理由をつけてそのまま握って帰った手に彼はやはり嫌そうな顔は見せなかったので佐助はもうちょっと進んでもいいかなとひそり思った。




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戦国BASARAの佐幸と真田主従と武田軍と西軍大好きなBASARA初心者です。
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。
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