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愛嬌、愛らしさ、懸命 静かな思い
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4/10が「主従の日」「嫉妬の日」「心中の日」と聞いて思わず。
ツイッタで呟いたネタが元となっております。
上記がテーマなのでちょっと薄暗いですご注意下さい。










・佐幸
・現代





【終の道行】












(嵐の前の)





休日の夕方、リビングで二人。
佐助はソファに座って幸村とテレビを眺めていた。
普段テレビは余り見ない幸村であるが、ニュースと時代劇は別だ。
その内後者は今は大分数が減ってしまい、幸村が見る事が出来る時間にやっているものは殆ど無い。
結果幸村が見るテレビの殆どはニュースのみと言う事になる。
今時の若者らしからぬ事態だ。
まあ、時代劇が加わった所でやはり若者らしいとは言えないが。
話しが逸れたがそんな訳で、幸村は現在ニュース番組を眺めており、佐助もその隣で幸村に倣う様に流れるニュースを聞いていた。
夕方のニュース番組は枠も大きく、内容も多岐に渡る。
国内外の今日一日、或いはここ数日の事件に関してが今は流れているが、佐助は基本天気ぐらいにしか興味が無いので前述の通りこの辺りはただ聞き流しているだけだ。
しかし幸村は真剣に見入っている。
政治の動き、事故、殺人、誘拐、詐欺、売春、汚職、海外の何処かで起こるテロ。
よくもまあ毎日これだけの事が起きるよなと思う程のそれらを逐一頷きながら聞き、時折けしからん、等と小声で感想まで述べているのが可愛い。
売春の事件には目を伏せて破廉恥な、などとコメントするものだから佐助は思わず吹き出しそうになった。
ニュースには興味は無いが幸村には大いに興味があるので、その為に佐助はいつもこの時間に共にテレビを見ていたりする。

そうして一通りの事件が流れ、そろそろ天気かなと佐助が画面の左上の時間を確認すると、丁度反対の右上に“次はお天気です”の文字が現れ最後のニュースが読み上げられた。
それは今日の昼に発覚した夫婦の心中についてで。
事件性が無い事から数十秒でニュース自体はあっさりと終わってしまったが、起きたのが県内の、それも二人も聞いた事のある地であった為に何となく二人の印象に残り、番組がCMに移った事も手伝って自然と天気を待つ二人の会話はその心中事件のものとなった。
その中の幸村の意見は至極単純明快だ。

「心中などしなくても・・・」

理由は借金を苦に、との事らしいが、夫婦で力を合わせて返して行けばいいだろうにと、そう言う事だ。
予想通りであるとも言える。
まあ、確かに今は自己破産なんて制度もあるし、死を選ばなくてもと言う気持ちは分かるが。
それはそれとして。

「でも夫婦でお互い了承の上みたいだし」

キャスターが読み上げた内容では、現段階の捜査では夫が妻を絞殺した後に自殺をしたらしいが、妻に抵抗の痕は無かったらしい。
薬を使われた形跡も無く、将に夫婦揃ってと言うやつだ。

「無理心中じゃないだけマシでしょ」

佐助が言うと、幸村はパチンと一つ大きく瞬きする。

「無理心中?」

どうやら聞きつけない言葉だったらしい。
何だと聞いてくるので佐助は簡単に説明してやった。
文字の如く、相手の合意無く無理矢理行われる心中の事だと。
聞いた幸村は酷く驚いた様だった。

「合意無く、など・・・そんな事があるのか?」

確かに合意が無ければただの殺人と同じだ。
しかし、実際には様々な理由でそれが起きているのもまた事実だ。
例えば、一人死んでは残していく者がこれから先生きてくのが大変だとか。
そしてもう一つ。
佐助は一瞬言い澱む。

「後は――・・・相手を他の誰かに渡すくらいなら、とかね・・・」

幸村は呆然としていた。
そしてそれから苦し気に眉根を寄せ、言葉を吐く。

「そんな・・・共に生きてこそではないか・・・」

幸村の言葉に佐助は苦笑した。
まぁ幸村ならそう思うだろうなと思ったからだ。
健全な彼らしい意見だ。
でも、佐助は――
佐助には分かる。
その気持ち。
佐助は自分が幸村に向ける気持ちが優しいだけではない事を自覚している。
もし幸村が自分から離れたら、自分はきっと幸村をこの手にかけるだろう。

否、寧ろ自分は、一度・・・

佐助はぼんやりと考えながらソファの背もたれの外に投げ出していた腕を持ち上げた。
そしてテレビを見ている幸村の首を後ろから掴みかけて、止める。
止まった手は力を失い、行き場無く宙を彷徨った。
瞬間、幸村が佐助の方を勢いよく振り向いて叫ぶ。

「佐助、大変だ!今日はこれから雨らしいぞ!」

テレビはCMが明け、待望の天気についてを語っていた。
幸村も前のニュースなど忘れたかのよう。
現れた傘のマークに、これでは明日は出掛けられぬではないか!などと文句を言っている。
今夜は荒れた天気となるでしょうと、若い女子アナが傘の絵の描いたボード持って告げる。
それを醒めた目で見ながら、佐助は持ち上げていた腕を下ろす。
唯一自分が気にしていた天気だと言うのに、今は全く興味がなかった。
しかし、それを噯にも出さずに佐助は幸村を笑顔で宥めた。

「まぁまぁ。偶には家でゆっくりもいいじゃないの」

普段は休日と言えど、幸村が近所の道場に行ったりスーパーで纏まった買い物をしたりと何かと忙しない。
それでも二人で行動するので不満は無いが、偶には家でゆっくりと言うのもいいだろう。
それに。

「夜遅くなっても寝坊出来るし、ね」

佐助は耳元で囁いて、にっこり笑った。
一瞬ポカンとした表情になった幸村だったが、徐々に言葉の意味を理解し真っ赤になる。

「明日、起き上がれなかったらごめんね?」
「お前は!また、そう・・・っ、破廉恥な!」

続ける佐助に、幸村は照れたように怒鳴る。
いつものやり取り。
佐助の言葉も、いつもの軽口と思ってるのだろう。
けれど。

「うん、ごめんね・・・」

笑顔を浮かべながら、佐助は謝る。
きっと幸村は軽口でからかった事への謝罪と思っているだろうが、実際にはそうではなくて。
謝罪は予感に対してだ。

(今夜は酷くしてしまうかも・・・)

荒れる天気は幸か不幸か。
佐助は先程下ろした手を、堪える様にきつく握り込んだ。










  *  *  *










(翳り朧月)





この戦で、既に幸村が生き延びる気がない事を佐助は知っていた。
けれど、それでも、心の何処かで思っていた。
万が一生き残って、国も家も失くなっても、自分とならば共に逃げてくれるのではないかと。
けれど、それは甘い考えだった。
幸村はどこまでも武士でしかなかった。
東軍の大将を討ち損ね、必死で逃れた山の廃寺。
幸村は傷だらけで、脇腹の一際深い傷は直ぐにでも手当てをしないと命に関わる程。
だと言うのに。

「佐助、東軍の陣形はどうなっている」

そんな状態でもまだ戦場に戻ろうとする。
支えがなければ歩く事すら困難である癖に。
いくら止めても聞こうとはしない。
無理に押さえ付ければ這ってでも進もうとするその姿に佐助は思わず歯噛みした。

「俺は、いかねばならぬ」

こんなのは初めてではない。
今まで何度でもあった事だ。
自分では結局幸村を止められないのだ。
けれど現状でその事実は今まで以上に佐助を打ちのめした。
噛み締めた奥歯が音を立てて、口に血の味が広がる。

もう止めてくれと必死に願った。
軍は武田のみならず何処も壊滅状態だ。
そうでなければ降伏か敗走をしている。
指揮を取れる武将も残っておらず、最後の砦の城も燃えた。
完敗だ。
西軍は負けたのだ。
これで終わりでいいじゃないかと佐助は訴えた。

「あんたももう、あんな大軍相手に戦える体じゃない・・・分かってるだろ!?」

これだけ前線で戦って、傷だらけになって。
ここで姿を眩ましても誰も幸村を責めたりしない。
だからどうかと佐助は願ったのだ。
どうか聞き分けて欲しい。
だのに幸村は言うのだ。
残酷な一言を。
いとも容易く。

「ならばせめて、政宗殿との決着を・・・」

だから伊達軍の場所を教えてくれと。
それを聞いた瞬間、頭が真っ白になった。
全て掻き消される。
冷静な思考も何もかも。
考えられなくなる。
対して心の内は真っ黒だ。
こんな思いは過ぎたものだと分かっている。
忍の己が嫉妬など。
けれど。
元は無かった筈の、この人に与えられた心が悲鳴を上げている。
苦しい。
苦しくて仕方が無い。
佐助にとって幸村は全てだった。
暗闇に堕ちた己に差し込む唯一の光だ。
そんな彼の為なら幾らでも命をかける事が出来たし、寧ろ残されるくらいなら彼の為に死んでしまいたかった。
けれどもうそれも叶わない。
共に生きる事も出来ないのなら、せめて――
佐助は強い力で幸村を仰向けに倒してその上に馬乗りになる。
呆然と見上げる、幸村の顔。
突然の裏切りが信じられないのだろう。
けれど、もう止まらない。

「最期くらい・・・俺様のものになってよ・・・」

晒された首に両手をかける。
手柄を求める有象無象も、そして何よりあの男が狙う、自分が守り続けてきたそれ。
あいつのものになんてさせない。
そうさせるくらいなら、その前に終わらせて全て自分のものにする。
佐助は指先にそっと力を込める。

滲む視界に、幸村が目を閉じたのが見えた気がした。





横たわる幸村を、佐助は黙って見下ろしていた。
目を閉じ動かない幸村。
光景が過去と重なる。
けれどここはあの焦げ臭い廃寺ではない。
二人で暮らす家の寝室。
柔らかなベッドの上だ。
幸村も眠っている為身動きはしないが、きちんと呼吸をしている。
彼は紛れもなく生きている。
ただ、いつもより手荒に抱いたからか、佐助が髪をすいても頬を撫でても起きる気配はない。
手を滑らせ首元に触れて覆ってもやはり目を開きはしない。
無防備なものだ。
まぁ、原因は自分なのだが。

目を閉じたままの幸村を見ながら、佐助は再び過去に思いを馳せていた。
あの後自分達がどうなったのか、佐助は覚えていなかった。
佐助が幸村の首に手をかけた直後、廃寺に追い付いた兵達が雪崩れ込み、二人は追手に襲われたのだ。
そして佐助は幸村を守る為に術を使った。
影で敵を覆い、また自分達も影に潜って逃げようとした。
しかし佐助も幸村に劣らず身体は既にボロボロで、そんな大掛かりな術に耐えられるような状態ではなかった。
無理に術使った反動で身体が引きちぎられるような衝撃と激痛に襲われ、その後の記憶は無い。
恐らくそのまま死んだのだろう。
追手の敵兵達を始末出来たのか、幸村の身体がどうなったのかも自分には分からなかった。
そんな終わりだったから、幸村があの時点で死んでいたのか生きていたのか、自分が本当に幸村を殺したのかは分からない。
けれど自分が幸村を殺そうとした事は紛れもないは事実だ。
仮に殺していなかったとしても、それは偶々追手が来たからに過ぎない。
来なければ自分はあのまま手を放さなかっただろうし、となれば結果は自ずと知れる。
自分は幸村を殺したのだ。
恐ろしいのは、今だってきっと自分は同じ状況に陥れば間違いなく同じ事をすると断言出来る事だ。
先にも思ったが、もし幸村が自分から離れようとすれば自分はまた幸村を手にかけるだろう。
そう言う人間だ。
分かっている。
そればかりかそんな瞬間を想像しただけで、或いは当時を思い出しただけで幸村が疲労困憊となる程に無体を働くのだから全くもって始末に負えない。
今夜手荒に幸村を抱いたのは殆どただの八つ当たりだった。
しかも幸村は何をした訳でもなく、ただ佐助が勝手に過去を思い出して思い詰めただけ。
幸村にしてみれば突然の佐助の乱暴な振る舞いに訳が分からなかっただろう。
理不尽なそれに後で殴られても文句は言えない。
その時は大人しく拳を受け入れなければなるまいと佐助は覆っていた手の平を離し指先で首筋を優しく撫でる。
くすぐったいのか幸村が唸り寝返りをうつと、佐助の方を向いて胸元に縋る。
その目元は泣きすぎで赤いし、胸に添える手の首には喉首の替わりの様に赤く痕が残っている。
幸村が逃げないよう、またそうでなくとも動けぬ様にときつく掴んで押さえ付けた所為だ。
激情が過ぎ去ってみればそれらは見事に痛々しくて、労る様に口付け佐助はそっとベッドを抜け出した。
何か冷やすものを持ってこなければと思ったのだ。
キッチンへと向かう途中、扉口で一度振り返って幸村に告げる。

「ごめんね・・・」

小さなその呟きは扉の閉まる音に消されて暗闇に融けた。










  *  *  *





(光の裏側)





響いた扉の閉まる音に、幸村はゆっくりと目を開けた。
実はほんの少し前から、佐助が離れようとした時に幸村は目を覚ましていた。
だから佐助が謝るのも聞いていた。
何に対してかは薄々気付いている。
だから幸村は呆れて溜息を一つ吐いた。

「馬鹿者・・・」

あの男、どうせ心中の話などしたから大方前世の最期を思い出したのだろう。
でなければ佐助が突然苛立つ理由が分からない。

佐助は前世を無理心中だと思っている。
幸村は望んでいなかったのだと、そう思っている。
先程の話と今夜の態度で分かった。
そんな訳がないのに。
もし幸村が望んでいなければ、無理心中が何かも分かっている筈だ。
そんな事も分からないとは。
普段鋭い癖に変な所で鈍いのだ、あの男は。
幸村はあの最後が無理矢理だとは思っていない。
あれは幸村も望んだ事だ。
首を絞められ、佐助が泣いているのを見て、幸村は己が佐助に望まれているのを知った。
武将や主としてだけでなく、ただ一人の人間として。
あの時、幸村は歓喜した。
戦も、彼の好敵手との決着も、あの瞬間全て吹き飛んだのだ。
だから自ら目を閉じた。
幾ら手傷を負ったとて、本当に望んでいなければそれこそ命の限り抵抗しただろう。
あのテレビのアナウンサーだって、妻は抵抗した形跡がないから無理心中ではないと言っていたのに。
全く何故気付かないのか。

これから十分にそれを思い知らせてやらなければと幸村は固く決意する。
何から話そうか。
どう説明しようか。
しかし取り敢えずは一発殴ってからだなと、幸村は首の替わりの様に赤黒く痣になった手首を振って佐助の戻りを待った。

扉が開くまで、あと数十秒。





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戦国BASARAの佐幸と真田主従と武田軍と西軍大好きなBASARA初心者です。
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。
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