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愛嬌、愛らしさ、懸命 静かな思い
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年始SS「年の初めの」のアンケートを取った時に「全部!」と言って下さった方がいらっしゃったので書いてみました。










・佐幸
・戦国

※何でも許せる方向け










【独歩愛得】










静寂に包まれた上田の城を幸村は歩いていた。



昨日までは挨拶に訪れた家臣やその家族達でに賑わっていた城内。
しかし三が日を過ぎればそんな来客も一段落し、今はしんと静まり返っている。
その所為か空気も常よりも何処か寒々しく感じ、自然と幸村の足は庭へと向く。
慣れた城内。
最短の道を選んで行けば直ぐに外の気配が近づいて。
求めた陽光に目を細めればその先に見慣れた茜色を見つけ、幸村は知れず肩の力を抜いた。

そこにいたのは己の忍である猿飛佐助だ。
佐助は縁側に腰を掛け、足を庭に、上半身を廊下に投げ出す格好で自らの腕を枕に眠っていた。
近づいたら起こしてしまうだろうか。
恐る恐る幸村は距離を詰めるが予想に反して佐助は目を覚まさない。
ほっと胸を撫で下ろし、幸村は己もと彼の隣に腰を下ろす。
風も無く降り注ぐ太陽の光が温かい。
遠く聞こえる鳥の鳴き声が長閑だった。

その空気に目を閉じ、ふぅと大きく息を吐いた幸村は視線だけを斜めに向け隣の佐助を覗き見た。
未だ瞼は閉じたまま。
こんなに近付いても目を覚まさないのは珍しいなと幸村は思った。
疲れているのだろうか。
無理もない。
忍隊の長に加え幸村の傍付きを兼ねる佐助は、この時期は通常の仕事に加え年始の準備にも携わる。
大掃除に御節の準備、いつしか会計方にまで頼りにされるようになった彼は間違いなくこの上田で最も忙しい存在だった。
そしてそんな彼は三が日を終え正月のあれこれが一段落した今、漸く休みを与えられている所だ。
午睡くらいゆっくりとさせてやらねばと幸村は名を呼びたいのをぐっと我慢し、ただ隣でその姿を眺める。

それにしても、どうせ休むなら中で休めばいいものを。
その方が温かいし、忍小屋まで戻れば長の彼には部屋が与えられており簡素ではあるが寝具も設えられている。
そちらの方が確実にゆっくり休めるだろう。
にも関わらず休みの日に佐助がこうして城にいるのは偏に己の為である事を幸村は知っている。
正月の里帰りで人が少なくなった城で幸村に不自由が無いように、その身に何も起こらぬように。
傍にいてくれる彼の献身は母の様でいて少し違う。
知れず湧き上がる衝動に胸が締め付けられる心地で。
幸村はそれを堪える為にきゅっと唇を噛んだ。



ともあれ、そんな佐助を起こすのは避けたいのだが、幾ら忍とてこんな外で長く眠っては風邪を引いてしまう。
思った幸村は己の着ていた羽織を急ぎ脱ぐと、横たわる佐助に掛けてやる事にした。
起こさない様に慎重に。
動いたつもりであったが殺しきれなかった風がふわり佐助の髪を揺らす。
その内の数本が眠る彼の頬に掛かる。
取ってやらねばと咄嗟に幸村は陽光に輝く髪に指を伸ばした。
そっと人差し指で掬ってみせると指先に触れた頬は冷たかった。

(あっ・・・)

浮かんだ言葉は単純だ。
ただ、温めねばとそう思った。

指先だけでなく手の平で覆う様に頬に触れるとやはり冷たさを感じた。
しかし幸村が冷たいと感じると言う事はその分佐助に熱が移っていると言う事だ。
それは幸村の望む所であり、良かったと安堵の思いが湧く。
けれど同時に触れてしまえば先に感じた衝動が再び幸村の胸を焦がした。
先は唇を噛み堪えたが、今度は堪える事が難しく。
幸村は引かれる様に佐助に顔を近づけると、僅かに熱を戻した頬へ己の唇をそっと寄せた。

――が。

触れる瞬間、後頭部を掴まれぐいと強く頭を引かれる衝撃に幸村は驚いた。
強引に傾けられた顔は幸村の当初の狙いを外し、その唇は頬では無く佐助の唇に触れた。
何が起こったか分からず、咄嗟に佐助を起こしてしまう事を心配したが、それは杞憂だと直ぐに知れる。
何故なら幸村を引き寄せたのが誰あろう佐助本人だったからだ。
上半身を起こした彼は柔らかく、しかし放さぬ強引さで幸村の唇を食み、至近距離で視線が合えば至極楽し気ににんまりと笑む。
我に返った幸村が離れようともがけばもう片方の手も頬に添えて。
更に深く口付けられれば背を走る感覚に幸村は抵抗の力を失った。




そうして貪られる様な口づけを受けて幾ばくか。
漸く解放された幸村はすっかり上体を起こし座った体制の佐助にくたりと体を預け、荒い息の合間に咎めの言葉を投げつけた。

「お前っ・・・狸寝入りっ、など・・・っ!」
「だって、旦那の気配がするからさぁ。悪戯でもする気なのかと思って」

様子を伺っていたのだと佐助は言った。

「けどまさか、こっちの悪戯されちゃうとは。予想外だったな」

大人の悪戯されちゃうなんてと佐助は笑う。
如何わしい言い方をとは思ったが、寝込みを襲ったのは事実だ。
幸村は反論出来ずにうぅと唸る。
しかし次の瞬間。

「にしても珍しいよね。寒いから人肌恋しくて寂しくなっちゃった?」

佐助のその言葉を聞いた途端、幸村は酷い羞恥に見舞われた。

否、今までも恥ずかしくはあった。
自分の行動が気付かれていた事も、無意識とはいえ口付けを迫った事も。
だがその言葉はこれまでの比ではなかった。
この場にいられない程の羞恥。
幸村は佐助を力任せに押し退けると脱兎の如く逃げ出した。





恥ずかしい。
幸村は庭を駆け抜けながら奥歯を噛んだ。
穴があったら入りたい。
寧ろこの庭に自ら穴を掘って埋まってしまいたかった。

こんな恥ずかしいのは佐助の言葉が図星だったからだ。

『人肌恋しくて寂しくなっちゃった?』

その通りだ。
自分は寂しかった。
そして佐助に甘えたいと思ってしまっていたのだ。

人の気配の極端に消えた上田の城。
いつもなら気にならないが、この正月の三が日は挨拶に来た家臣や町人らが特別な日を家族で仲睦まじく過ごす様子を見ていたからか、余計に静寂を強く感じた。

親はとうに亡く、唯一の肉親である兄も遠く離れて既に久しい。
また幼い頃もこう言った行事は義母を慮り余り参加しなかった幸村は、そもそも家族で正月を過ごした記憶自体が薄い。
羨望が寂しさを増長させ、人恋しさを覚えた折に佐助の姿を見て堪らぬ気持ちになったのだ。
それを見透かされたと思った。

庭の端。
流石に素手で穴は掘れぬが代わりに頭を抱えて幸村は蹲る。
こんな子供じみた思いも、それが知れてしまった事も恥ずかしかった。
また恥ずかしいだけでなく。

「情けない・・・」

思わず呟くとその直後に頭上から聞き慣れた声が降って来た。

「別にいいじゃない」

甘えたかったならそう言えばとその声は続けた。

声の主は幸村を追ってきた佐助であった。
彼は幸村にそう告げると音も無くその背後に降り立った。
そして上から腰を曲げて覗き込む。
未だ顔の見られない幸村は顔を腕に埋めて視線から隠した。
それから小さく思いを吐露する。

「言える訳がなかろう」

幼子ならいざ知らず己は元服もとうの昔に済ませた武家の男だ。
それも一城を預かる身。
そんな情けない事など言える訳がなかった。
本当はその手に慰めて欲しいだなんて。

「主として言える訳が・・・」

幸村が言葉を濁すと佐助がふっと笑う声が聞こえた。

「おばかさん・・・」

しかしそれは言葉とは裏腹に、馬鹿にしたものでは無く苦笑交じりの優しい音を含んでいた。

「主として言えなくても、俺様には恋人として言えっての」

隣にしゃがんだ佐助は手を伸ばし、幸村の頭を優しく撫でる。
密かに望んだそれを叶えられ、幸村は唇を噛んだ。
またあの衝動が胸に湧く。
しかしその手が頭を撫で、頬を撫で、そして唇に触れた所ではたと我に返る。
正確には同時に発された佐助の言葉で。

「旦那からのお誘いなら、俺様大歓迎よ?」

触れる。
慰める。
お誘い。
それの指し示す行為とは。

「ちちちっ、ち、違うぞ!?俺はそう言う意味では・・・っ!!」

思い至った幸村は、地面に尻もちをつき着物が汚れるのも構わず後退る。
しかし庭の端に逃げ場は無く、直ぐに壁に追い詰められ捕らわれた。
顔中口付けを施され、触れる場所全てを撫でられる感触は心地好く、甘やかされて力が抜ける。

「本当に違うの?」

尋ねる佐助は確信を持って、嘘と強がりに閉じた唇を融かす様に舌先で舐めた。
その熱に幸村は次第に思考も溶かされて。
甘えたいと言う意味では違わないかも知れないと流されておずおずと唇を開いたのだった。









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戦国BASARAの佐幸と真田主従と武田軍と西軍大好きなBASARA初心者です。
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。
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