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愛嬌、愛らしさ、懸命 静かな思い
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暫く原稿で籠っておりました。

4月の戦煌でゆた先生の出される御本にゲストで寄稿させて頂きました。
ケモ佐弁でこの「春告げ鳥~」の続き的な話になっておりますのでもし気になりました方はご本を手に取ったついでに読んで下さると嬉しいです!










・佐幸(佐弁)
・ケモパロ
・九尾助と小虎弁丸様

※何でも許せる方向け





【春告げ鳥が鳴くまでは】











甲斐のお山に住まう一匹の九尾の狐は今大きな悩みを抱えていた。

九尾と言えば見る者を震え上がらせる程の強く恐ろしい妖だ。
そんな彼が頭を抱える悩みとは。
さぞや大事なのだろうと同じ山の妖達は皆物陰から囁き合う。
このお山、否、もしかしたらこの甲斐の国全体に関わる様な事かも知れぬ。
妖達は一体何があるのかと恐々と様子を見守るしかなかった。

果たして九尾の狐の悩みとは――










「大将・・・弁丸様の成長、ちょっと遅くない?」

甲斐のお山を治める大虎信玄公の御前。
佐助は酷く沈鬱な様子でそう尋ねた。

佐助は九本の尾を持つ狐の妖だ。
山の妖達からは恐れられ、同時にお山の主である大虎信玄公を支える側近として敬われている。
そんな佐助の頭を今いっぱいにしているのは大切な養い子の成長について。
恐怖の存在としてその名を轟かせる九尾の狐が育児に頭を悩ませているなどと、何処の誰が思うだろうかと悩みを打ち明けられた信玄は笑った。

「この間会うた時はそんな風には感じんかったが・・・」

気にし過ぎではないかと信玄の答えに佐助は深く考え込む。

佐助が信玄から預かった大切な養い子、弁丸は信玄と同じ炎虎の子供だ。
虎の妖は元より数が少ないが、中でも炎虎は更に貴重で。
行く行くは信玄の後を継ぐ存在になるだろうとまことしやかに囁かれている。
しかし只でさえ力の強い虎の種族の炎を持った存在は、例え子供と言えども攻撃力が強く。
否、力を制御出来無い分、子供の方が危ういかも知れぬ。
誰も皆、とても手に負えるものではないと信玄に預けたお鉢は更に回って佐助の手に託された。

弁丸に初めて会った時の事を佐助はよく覚えている。
信玄に呼ばれ神域とされる山奥の岩穴に顔を出すと、大きな体躯の足元に小さな毛玉が転がっていた。
転がっていたと言うのは比喩では無い。
まだバランスを上手く取れない弁丸は二、三歩歩く毎によろよろとよろけ、横に後ろに転がっていた。
それでもやはり虎の本能はあるのか、信玄が己の尻尾を目の前で揺らせば手を伸ばし、飛び付き、じゃれようとした。
微笑ましさと同時にその体躯差に尻尾すら小さな体を押し潰しやしないかと非常にハラハラしたものだ。

そうして片手間に弁丸をあやしながら語る信玄から前述の弁丸の境遇を聞き、嫌な予感がするなと思ったらそのまま子守りを頼まれた。
予感は見事に当たったと言える。
しかし山を治める信玄は弁丸だけに掛かり切りになる事も出来ず、また性格的にも若干大雑把な所がある彼は子供の些細な変化を見なければいけない赤子の子育てには向いているとは言い難い。
佐助ならば流石に子育ては経験が無いが、まめな上に面倒見も良い。
また、まだ力を制御出来無い弁丸が炎を暴走させてしまった時に押さえ込めるのが同じ炎虎たる信玄を除けば闇を使う佐助しかおらず。
実質お前しかおるまいと言われてしまえば佐助も断れはしなかった。

そんな風に半ば押し付けられたと言っても過言ではない子育て。
しかし始めて見れば自体は思わぬ方へと向かって。
今までその力の強さ故に身近に愛情を受けられなかった幼い子供は面倒を見てくれる佐助に素直に懐き、これ以上無い程に慕ってくれた。
無邪気に手を伸ばし、後を付いて回り、名前を呼ぶ。
そんな全力の信頼を向けられればさしもの佐助も情が湧き、今では何をするにもまず弁丸の事を考えるようになってしまった。
仲間の狐には雄の佐助には無い筈の母性が溢れているとまで言われる始末。
時に子守りを頼んだ信玄すら苦笑する程に佐助の弁丸への愛情は大きくなっていたのだった。



しかし、愛情が大き過ぎるが故に過保護と言われる事も多く。
今日の相談もそうだった。

「いや、でも、あの歳の子供ってあんなに甘えただったっけ?そりゃ一人で留守番は出来る様になったけど、帰るとひっついて離れなくてずっと擦り寄って来たりするんですよ?」

弁丸ももう赤子の時期はとうに過ぎた。
些か幼過ぎやしないだろうか。
不安を感じ、佐助は一般的な虎の子供の成長についてを聞きたいと信玄に問いに来た訳なのだが。
望んだ答えは得る事が出来ず。
逆に信玄から問いを向けられ困惑する。

「弁丸のそれは、本当に甘えだけなのかのう?」
「・・・大将、どう言う事?」
「弁丸とおぬしは種族が違う事を忘れてやせんか?」

信玄の問いを佐助は訝しんだ。

忘れている訳がない。
おかげで預かったばかりの頃は食べさせるものが分からず非常にあれこれ悩んだのだ。
弁丸はまだ言葉を発せなかったし、信玄は子供の頃の事など昔過ぎて忘れたと言う。
食べさせてはいけないものは無いかなど、毎度初めて与えるものは冷や冷やしながら見守ったものだ。
あの心労を忘れる筈がない。

それに、そもそも種族が違う事を分かっているからこそ今日もこうして相談に来たと言うのに。
意図が分からぬ様子の佐助に信玄は含み笑いを浮かべ目を閉じる。

「まぁ、成長の遅い早いはそう気にせんでいい」
「いいの?」
「見ておっても言葉は話せるし、人への変化も出来るようになったのなら然程困る事もあるまいて」

言葉は佐助の真似をしている内に生活に必要な事は粗方覚えた。
人への変化は偶に人里に降りる事もある佐助と一緒に行きたいと言う願いから必死に練習し今では立派に変化できる様になっていた。

・・・あれ?
そう考えるとうちの若様って寧ろ天才?
成長遅くなんかない?
一人呟く佐助に信玄は過保護なだけでなく親馬鹿もかと呆れ。

「甘えたは・・・まぁ確かにおぬしには甘え過ぎな気もするが・・・儂にはああも無邪気には甘えて来んと言うのに・・・」
「睨まないで下さいよ・・・お館様には主君への無意識の畏怖もあるんでしょう」
「まあ、それは単に性格かも知れんからの。おぬしが嫌でないなら成長に任せておけばよい」

そうきっぱりと言い切られて佐助は分かりましたと頷いた。

甘えられる事は嫌では無い。
可愛い愛し子に甘えられ、それが嫌な訳がない。
ならばこのままで良いのかと佐助が納得しかけた時、しかしと信玄が付け加える。

「儂は、弁丸のあれは甘えだけとは思えんがのう」

そんな風にまた思わせぶりな言葉を。
佐助は暫し足を止めるも此処でまた悩んでいても仕方ないと、信玄に一礼をして前を辞す。
用事が終わったならば一刻も早く置いてきてしまった愛し子の元へ。
佐助は振り返りもせず、脇目も振らず、塒への最短距離を駆け戻った。



そんな佐助の背を見送り信玄は笑う。
預けた幼子を予想以上に甲斐甲斐しく世話し、可愛がってくれる事は信玄にとっては有難いが。

「あれは母親になりすぎだのう」

一歩退いて見れば弁丸の行動の甘え以外の意味も直ぐに気付くものであろうに。
一応匂わせ程度のヒントは告げたが、あの過保護ぶりでは果たしてそれに気付くだろうか。
信玄は恐らく今日も帰ったら佐助曰くの甘えを思い切り受けるであろう狐を確信して忍び笑った。










一足飛びに山を駆けた佐助が塒に戻ると、入り口から声を掛けるより早く匂いで気付いていたらしい弁丸が待ちかねたとばかりに穴から飛び出し、佐助は盛大な出迎えを受けた。

「佐助!お帰り!用事とやらはもう終わったのか!?」
「ごふっ!・・・べ、弁丸様、ただいま。いつも言ってるけど突進はもうちょっと加減してね?」

将に火の玉の如き勢いの弁丸を、受け止めた佐助は支えきれずに後ろに倒れる。
避ければ勿論この背中の痛みも、タックルを受ける腹の痛みも回避出来る事は分かっているが、佐助が避ければ飛び出した弁丸が他の物にぶつかり怪我をする可能性がある。
となれば当然の様にその選択肢は佐助の中からは消え失せた。
まぁ単純に抱きついてくる弁丸が可愛いと言うのもあるのだが。
それにしても、弁丸が狼などイヌ科の血を引いているのではと疑ってしまうのはこんな時だ。
佐助に抱きつき喜ぶ背後には激しく振れる尻尾が見える気がする。

佐助に乗り上げそのまま待っていた間の話をしようとする弁丸を、取り敢えず首を咥えて塒の中に戻した佐助は不在の間に汚れ乱れてしまった毛並みを毛繕いしてやろうと、小さな体を柔らかな草のベッドに運んだ。
そこまでは素直に運ばれた弁丸だったが、ベッドで漸く落ち着くと佐助の懐に顔を埋めふんふんと鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。
その途端に何かに気付いた様にふっと一瞬動きを止めると、むぅと唇を尖らせ急に不機嫌な気配を見せた。

「お館様の所に行っておったのか?」

弁丸が気付いたのはどうやら佐助の行き先の様だった。
お館様の御前では伏せている事が多かったから懐に匂いがついていたのかも知れない。

不機嫌と言っても怒り出す程のものではなく、どちらかと言うと拗ねた様な声で弁丸が問うた。
同時にぐりぐりと頭を佐助の胸元に押し付ける。
そうすると頭の毛が潰れてしまい、乱れた毛並みを早く整えたい衝動に佐助は駆られたがそこは一先ず我慢した。
先に弁丸の気持ちを晴らさねば。

一人置いて行かれて寂しかったのか。
弁丸が行けない場所ならば兎も角、信玄への目通りなら己も一緒に行きたかったと拗ねているのかも知れない。
やっぱり甘えん坊だよなぁと佐助は甘やかすべく尻尾でその体を包み込む。
佐助の尻尾が大好きな弁丸にはこれはいつも覿面の効果を発するからだ。
しかし、いつもならば尻尾に包まれれば大人しく喉を鳴らす弁丸は、今日は何やら落ち着かぬ様子を見せた。
もぞもぞと体を動かし顔を埋めると、どうしたか己を包んでいた尻尾の一つを捕まえ口を開けて噛み付いた。

「痛っ!ちょっ・・・何!?どうしたの!?」

思わず声を上げ尻尾を逃がすと弁丸は名残惜しそうに手を伸ばしはしたが、それ以上には掴んで引き止めたりはしなかった。
佐助の叫びに拙い事をしてしまったと気付いたのだろう。
しゅんと俯き謝りもした。

「すまぬ・・・何やらむにゃむにゃして我慢が出来無かった・・・」
「むにゃむにゃ?」

まだ言葉を余り知らない弁丸はよくこうして独特の擬音語や擬態語を使って気持ちを表す。
今回ならば正しくはムズムズだろうか。
弁丸が閉じた口を落ち着かな気に動かすのに気付いた佐助は人型に変化をすると、獣よりも器用に動かす事の出来る手を弁丸の口元に添えてこう告げた。

「はい、弁丸様、お口あーん!」

すると弁丸は己も人型に変化をして、それから素直に口を開いた。
弁丸は獣のままでも良かったのだが。
佐助が人型になったのなら自分もそうだと考えたのかも知れない。
佐助は笑いながら指で歯を一本ずつ触り弁丸の口の中の様子を見た。
すると数本がグラグラとして抜けそうになっている事に気付く。
成る程、ムズムズの原因はこれか。
乳歯が大人の歯に生え変わろうとしているのだ。

「大人の歯?生えれば大人になれるのか?」

呟きに目を輝かせる子供に佐助は笑う。
確かに歯は生え変わるが、そんなに直ぐに大人になれる訳ではない。

「うん・・・まぁ・・・大人の第一歩って感じかな?」

急に大人にはなれないが少なくとも一歩ではある。
そう教えてやるとそれでも弁丸には嬉しかったのだろう。
両手を上げて喜んだ。

「そう言う事で、ちょっとの間は変な感じがするかもだけど我慢してね。ムズムズする時は木の枝とか咬むといいよ」

但し、強くすると痛めるかも知れないから軽くね、と。
よくよく言い含めると、弁丸は目の前で立てていた佐助の指を咥えるとそのまま柔く甘噛みする。

「ほへふはひは?」
「うん、上手。それぐらいでね」

言った事を直ぐに聞いて実践する素直さが愛おしい。
片手を食まれたまま、もう片手で佐助は弁丸を抱き上げると、獣の姿で褒めるのと同じ様に鼻先を舌でぺろりと舐めた。
すると擽ったそうに肩を竦ませた弁丸が、手を伸ばして髪を掴む。
揺れる体を安定させようとしたのだろう。
抱き上げた時にはよくする行動だ。
しかし、その仕種が――

縋る様な指先。
頬を染め、指を食む。
その様子はあらぬ状況を思い起こさせ、佐助は一瞬動きを止めた。
赤くなり、それからさっと青褪める。
いやいや養い子に対して何考えてんの俺様!?
弁丸様はまだ幼いのに!

佐助の内心の焦りなど知りもしない弁丸は、むぅと唸りながらいつものように甘えて佐助の胸に頬擦りをする。
ぐりぐりと額や頬を押し付け、顔を埋めて満足気に微笑む。
それは佐助が甘えと呼ぶいつもの行動であったのだが。
何故かこの時唐突に佐助は気が付いた。
甘えと思っていたこの行動は、もしかして匂い付けだったのではないかと。
猫科の獣が自分の物を示す時にする行為。

『弁丸のそれは、本当に甘えだけなのかのう?』

信玄の言葉が脳裏に響き、全ての疑問が佐助の中で綺麗に解ける。

瞬間、背筋を走るもの。
佐助の尻尾がぶわりと大きく膨らんだ。
弁丸を抱っこしていて良かった。
でなければきっと盛大に飛び付かれていただろう。
今尻尾にじゃれつかれると何か非常に拙い気がする。
何がとは言えないが。

「佐助!佐助!歯はどれくらいで大人になるのだ?」

尋ねられ、動揺を必死に隠して佐助は曖昧な笑みを返す。
早く大人になりたいと期待に胸を膨らませる愛し子に、そんなに焦らないで、もう少し子供のままでいてと佐助はもごもごと動く唇を撫でて思った。





せめて心の準備が出来るまで・・・
















弁丸は佐助がお館様の匂いをさせて帰って来たので嫉妬したのでした。

「むにゃむにゃ」  
△ムズムズ
〇ムカムカ



いつもお世話になっているゆた先生のお誕生日に。
先生、お誕生日おめでとうございました!

因みに此方の素敵絵を元にさせて頂いております。

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戦国BASARAの佐幸と真田主従と武田軍と西軍大好きなBASARA初心者です。
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。
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