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愛嬌、愛らしさ、懸命 静かな思い
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ツイッターでお世話になっているムジ様のお誕生日に差し上げたものです。
佐助さんがちょっと女々しくなってしまいました。
そして前にも似たような話書いた事あったって言うね・・・
でもいざと言う時に佐助さんを引っ張り上げる旦那が好きなんですすみません。










・佐幸
・現代転生











部の大会も終え、受験に向けて補修に明け暮れる毎日。
全ての科目の授業が終わって放課後、しかし佐助は帰る仕度もせずに既に誰もいなくなった教室でぼんやりと席に座ったままでいた。
外では、三年が抜け新体制となった後輩たちが部活動に励む声がする。
運動部の掛け声、吹奏楽部の演奏の音。
平和な筈のそれらを聞きながら、しかし佐助が思い出すのは全くそぐわない過去の事であった。
それは、この平和な現代に生まれる前、激動の戦国時代を生きた記憶。
戦場での兵士達の咆哮。
鳴り響く法螺の音。
嘗て当たり前の様に聞いていたそれら。
懐かしみ佐助が目を閉じると、やがてそれを打ち破る騒々しい足音が聞こえて来る。
いや、これもある意味昔から聞き慣れたものだ。

「佐助ぇ!」

跳ねかえらんばかりの勢いで教室の扉を開いた足音の主――幸村は、何の前触れもなく佐助に高らかに宣言した。

「海へ行くぞ!」

その余りに突飛な発言に、佐助は一瞬返事を忘れてポカンと口を開いて幸村を見返した。

 

 

【羅針盤】

 

 

佐助と幸村の付き合いはもうかなり長いものとなる。
この現代で幼馴染として、生まれてから高校生となるまで過ごした十八年。
それに加えて前世で過ごした十数年の年月。
しかし、それだけ長い時間共にいても偶にこうして幸村の突飛な思い付きには驚かされるなと佐助は電車に揺られながらつくづく思う。
幸村の発言は海辺の学校ならばまだ理解出来ようが、生憎二人が通う高校はどちらかと言えば山の中にある。
海まで行くには電車をいくつも乗り継がなければ辿り付く事は出来なかった。
おまけに、言いだしたのが夏場でなければ既に薄暗くなり始めているような夕方と呼んでも差し支えない時間だ。
それから向かっても着く頃には何をする時間も無いであろう事は明白であった。
しかしそう言っても幸村は一向に聞く気配を見せないので佐助は諦めて従っている。
幸村が言いだしたら聞かないのは昔からなのだ。
逆らうだけ無駄と言うものだ。
そうして行くと言いだした割には幸村は電車の乗り継ぎも方向も分かっておらず。
仕方なく佐助が先導する形で電車に揺られて小一時間。
何とか二人目的地に辿り付きはしたのだが、既に時刻は案の定夜に近く。
この時期だからまだ幾分空は明るいが、流石に泳ぐのは危険だと止めざるを得ない時間だ。
まぁ、そもそも突発的過ぎて水着も持ってきていないのだが。
そんな状況で、更に言えば特別有名な海水浴場と言う訳でもないその海は人も疎らで店も特別出ていない。
楽しめそうな要素は何一つとして有りはしなかった。
いぶかしむ佐助を余所に、しかし幸村は眼下に広がる光景におぉ、と歓声を上げている。
広く伸びる水平線。
その先に既に太陽が半分程沈みかけている。
余りに広大で、確かに声を上げたくなる気持ちも分からないでもない。
しかし、遊ぶつもりでもないこの海に一体何をしに来たのか。
ただこんな景色を見に来たのか?
佐助が尋ねようすると幸村はまるで図ったかのようなタイミングで感嘆のまま目を輝かせて浜辺へ向かって駆け下りていってしまう。
ちょっとは人の話を聞いてよと言いたくなったがそれも既に今更だ。
佐助は溜息交じりにその後を黙って追ったのであった。

 

浜辺まで降りた幸村は、鞄を放り投げ、靴を脱ぎ捨て、裸足になって波打ち際を歩いていた。
時折迫る波に水を跳ねさせながら、どんどん先へ進んでいく。
少し躊躇った佐助であったが幸村がどんどん離れてしまうので仕方なく自分も同じように裸足になって波打ち際まで足を進める。
伸びる幸村の足跡。
辿る様に佐助も黙って後ろを歩いた。
そうして数歩後ろで幸村の潮風にたなびく後ろ髪を何ともなしに眺める。
この光景。
前世の戦場で同じ様に幸村の後ろを追った事思い出し、佐助は目を眇めた。
もっとも、あの時は潮風ではなく、煙の入り雑じった熱風だったけれど。
再びの懐かしさにふと熱い思いが胸に去来して、佐助はとうとう沈黙を破って幸村に声をかけた。

「旦那・・・」

答えはない。
けれど気にせず佐助は言葉を続けた。

「今日、何でここに来たの?」

幸村は突飛な行動が多いけれど、実はそれも意味のあるものだったりする事がある。
勿論、本当に考えなしの事もあるのだけれど。
しかし今日のそれは前者な気が佐助はしていた。
何となくだけれど。
長い付き合い故の勘と言うやつか。

「何かあった?」

尋ねると、幸村は振り返って漸く答えてくれた。

「何かあったのはお前の方であろう?」

否、何か悩んで、と言った方が正しいか。
ここ最近、ずっとぼーっと何か考え込んでいるようで。
だから遠出をして、海でも見れば気が晴れるのではないかと思ったのだと幸村は言った。
佐助はハッとする。
いつから気づかれていたのだろう。
佐助はポケットに入れていた拳を握った。
中でくしゃりと紙が潰れる音がする。

佐助のポケットの中には、今一枚の白い紙が入っていた。
それは先週、この補修が始まる前に配られたものだ。
佐助が将に悩んでる要因。
白紙の進路調査表。
夏の大会が終われば三年は受験一色となる。
その用紙も、それに充てて配られたものであった。
部活動を終えた後のそれは、今までよりも一層具体的なもの求められて。
これまでは然程深く考えずに得意な分野や教科で何となく書いていた為悩む事もなかったが、今までと同じ内容を書こうとペンを持ち、しかし今になって佐助はそれを躊躇った。
このまま進めば、佐助はレベル的にも都内のそれなりの大学を目指す事になる。
それはつまり、幸村との別離を意味していた。
それを改めて実感したのだ。
幸村と離れるなんて考えた事もなかった。
出来るなら、ずっと傍でと思っていた。
しかし既に都内の大学に進学すると思っている周りを説得させるだけの強い熱意を持って行きたい大学も、学びたい分野もある訳ではなく。
佐助は何も書く事が出来なくなった。
途方にくれて白紙のままポケットに突っ込み、そして今に至る。
幸村にはこんな格好悪い事は言えなかったが、どうやら気付かれていたらしい。
先程の佐助ではないが、これも長い付き合い故か。
佐助は溜め息を吐いた。
出来れば知られたくなかった。

「様子がおかしくなったのは先週くらいか。となれば恐らく進路の事なのではないか?」
「そこまで気付かれちゃってんの」
「お前の事だ。此処を離れるのが嫌だなどと悩んでおるのであろう」
「そんなとこまでかよ」

本当は、離れがたいのはこの地ではなくて幸村の傍なのだが。
しかしこの上態々恥の上塗りをする気もない。
だから佐助は訂正せずにいたが、幸村の事だからそれすらも気付いてるかも知れない。

「俺様格好悪い」

佐助は思わず踞った。

そうだ。
佐助は今悩んでいるのだ。
だって自分自身の将来等と言われてもどうしたらいいか分からない。
昔はただ幸村の傍にいれば良かった。
道は生まれた時から殆ど決められていて、ただ生き抜いて傍でこの人を守れればそれで良かった。
けれど今は、生きる以外にも色々決めなければいけない事も多くて。
選ばなくてはいけない事も。
選択の権利が広く与えられる様になったのは良い事である筈なのだが、同時に厄介な事でもあった。
この平和な世で、昔は良かったなどと言ったらまた女々しいと思われるだろうか。
しかし、そんな佐助に幸村は言った。
格好悪くも女々しくもないし、例えそうだとしてもそう言う佐助を見る事が出来て自分は嬉しいと。
昔では有り得なかった、佐助の弱い部分を新たに知る事が出来るのは嬉しい。
しかし、それを佐助が嫌がっている事も知っているので自分もと白状する。
してくれる。

「俺とて、不安がない訳ではないのだぞ」

佐助が離れる事。
将来の事。
同様に不安なのだと幸村は言った。

「だが、昔の様に生死に関わる事ではないであろう?」

だからまだ我慢出来るのだと幸村は告げる。

昔は、佐助が自分から離れる時と言うのは即ち任務の時であった。
忍である佐助の任務は大抵危険が伴う。
敵国へと潜入しての情報収集。
戦の為の仕掛け、細工。
そして暗殺。
その度に、どうか無事で生きて帰ってきてくれと、そればかり思っていた。
けれど今は違う。

「お前を危険に晒す事なくいられる」

それが嬉しいと幸村は笑った。

「それにな、佐助。今は通信も、交通手段も前より遥かに充実しておるのだ」

何しろこうして、思い付いてからほんの小一時間で海を見に来られるのだ。
昔では考えられなかった事だ。
昔は何日も馬で歩いて漸く辿り着くと言う程であった。
甲斐の国に海はなく、また城を任されている身で幸村は何日も自由には国を離れられない。
いつか二人で見に行きたいと話した事もあったが。
結局その願いは果たされないまま二人の生は終わってしまった。

「それがこんなに直ぐに叶うようになったのだ」

多少離れた所で、会いたいと思えば幾らでも手段はある。

「だから、距離など気にせずお前の一番いい様にすればいいのだ」

そう言って幸村は笑い、しゃがみ込む佐助に手を差し出した。
あぁ、と佐助は思う。
幸村の突飛な行動は、立ち止まって落ち込む自分を奮い立たせる為のものだったのだ。
この人はいつもこうして自分を導いてくれる。
もうずっと昔から。
差し出された手を、向けられる笑顔を眩しく思いながら強く握ると勢いよく引っ張られる。
掴んだ手は温かくて、引き寄せる腕は力強い。
敵わないなと苦笑して、佐助は引かれる腕に逆らわずにしっかりと立ち上がる。
拍子にほんの一瞬だけ、勢いに負けた風を装って幸村に凭れかかったが、幸村は気付いているのかいないのか。
何も言わずに緩く抱き締めてくれた。

 

 


それから暫く二人で浜辺を歩きながら話をした。
先と同じように幸村が前を歩き、その足跡を追う様に佐助が後ろを歩きながら。
昔の事、これからの事。

幸村はやはり地元の大学を受験するつもりらしい。
県内の都市部にあるスポーツ科を受けるのだと佐助は初めて聞いた。
スポーツ推薦の話もあった様だし、てっきりそれを受けるのだとばかり思っていたが。
しかし幸村は言う。

「将来、お館様の道場の手伝いをする為には色々学ばねばならぬからな!」

自分が強いだけではダメなのだと幸村は気合いを入れていた。

そうして日がすっかり暮れるまで語り明かして。
それから同じ道を辿って帰宅し。
一晩かけて佐助が出した結論は――

 

 

 

 


「何で地元の大学なのだ!」

記入された佐助の進路調査表を見て幸村が叫ぶ。
あれだけ後押しをしたのにと。
しかも幸村と同じ大学だ。
佐助にしたらかなりレベルを下げる事になる。
しかし佐助はあっけらかんとしたもので。

「自分がいいと思うようにしただけだって」

例え気軽に連絡が取れても、直ぐに会いに行けても、たった4年間でも、傍を離れるなんて土台自分には無理な話だったのだと気付かされた。
それに、理由は他にもある。
佐助が志望したのは幸村と同じ大学だが、学部は違う。
佐助は経済学部を目指していた。
幸村が信玄の道場を手伝うのなら、経営面の手伝いは別に必要となるだろう。
何しろ二人とも昔からどんぶり勘定で、その傾向は今でもやはり変わっていない。
自分がやらなければ。
そう思ったのだ。
教師には何故国立や上位大学を目指さないのかと散々勿体無さがられたけれど。

「だって、俺様の一番の希望はあんたを傍で支える事だから」

別に有名大学にも興味はない。
これが己の最善の道なのだ。
因みに、教師達は佐助の突然の志望校変更に慌てていたけれど、周りの友人達は納得していた。
寧ろ違う大学に行くつもりだったのかとそちらを驚かれ、反論の言葉も無かった。
勿体無いと呟く幸村に佐助は開き直って笑った。

「いい大学行かなくても死にはしないからね」

態と幸村の言葉を使って言えば、その人は一瞬呆れた様にしながらも、溜め息を吐いて仕方ないなと言って同じ様に笑う。

 

 

これからも貴方の傍で、半歩後ろを歩いていく。

 

 

 

 

 

 


「一緒の大学に行く為にも旦那には絶対受かってもらわなきゃね~」

次の日から佐助さんの家庭教師生活の始まり。


 

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戦国BASARAの佐幸と真田主従と武田軍と西軍大好きなBASARA初心者です。
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。
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