愛嬌、愛らしさ、懸命
静かな思い
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今更3ネタです、すみません。(でも4ネタもあります)
ちょっと鬱村ですのでご注意ください。
JEからの久々の劇場版DVDを見て3をプレイしたくなったのですが、wiiを引っ張り出すのが面倒でプレイ動画だけで我慢中です。
PS3のトリプルパック買ってしまおうかしら・・・
・戦国
・佐幸
・3ネタ(でも4も有)
・鬱雰囲気
・捏造十勇士(少し)有
【夢に惑いし(前篇)】
水底の、夢を見る。
もがいても水面は遥か遠く、浮かび上がる事が出来ない。
息苦しくてこのまま死んでしまうのではと思い、もうダメかと言うギリギリの所で漸くハッと目が覚める。
そうしてビクリと身体が跳ねて、その反動のまま飛び起きると言うのがここのところの常だった。
目覚めた瞬間に息を吸い込み、呼吸が出来る事に安堵する。
纏わりついた得体の知れない恐怖に身体が震える。
死を、身近に感じたからだろうか。
戦場でもそのようなもの、今まで感じたことがなかったと言うのに。
深呼吸を繰り返し、逸る心臓を落ち着ける。
少しすれば鼓動は次第に納まってくはくるのだが、そうして今度は薄明るくなってきた外の様子に現実を思い出してまた心臓が痛んだ。
先に感じた安堵が一瞬で霧散する。
また一日が始まるのだ。
今日は何を失うのか。
唇を噛んで、幸村は上掛けを握り締める。
いっそ、全て夢なら良かったのに・・・
甲斐武田が主、武田信玄の館、躑躅ヶ崎。
嘗ては師と弟子の騒がしい掛け合いがこだました活気溢れる場所であったその館は、今はひっそりと静まり返っていた。
甲斐の虎と呼ばれた偉大な男は今は病床につき、ただ静かに眠っている。
その為か館は静かなだけでなく、包む空気は重苦しく沈鬱なものであった。
また、それは主の病の所為だけではない。
総大将たる信玄を欠く事となった武田はその弟子真田幸村が後を託され代わりとなって軍の指揮をとっているのだが、その手腕は未だ拙く戦は敗戦を重ね、甲斐は領土も国力も減じ続けている状況だ。
その責任を誰よりも感じているのは幸村本人で。
敬愛する師から預かった国を奪われ衰えさせて申し訳ない不甲斐ないと。
そしてその萎縮が更に戦運びを拙いものにさせると言う悪循環。
いっそ開き直って甲斐を己のものと好きに指示できれば大将たり得る実力はある筈だと言うのに。
師への盲目過ぎる崇拝がそれを妨げる。
皆何とか現状を打破出来ぬかと思いはすれど解決の糸口は見えないまま。
甲斐は信玄と共に滅びるのではないかとまで噂が立つ始末であった。
その噂を、長く仕える忠臣、或いは武田の気性を良く受け継いだ熱血兵達においては、若虎たるお館様の意志を継ぎし幸村様がおられれば武田は必ず盛り返すと跳ね飛ばし、それは武田全体の願いでもあるのだけれど。
実はその若虎までもが体調の面において芳しくない。
信玄のように病を得ている訳ではないのだが、否、ある意味それと変わらぬだろうか。
気の病。
先の通り甲斐の衰退に責任を感じ、なまじ真面目なものだからそれを全て一人で抱え込む。
おかげで健康優良児を絵に描いたような男であった彼が、今や食欲は落ち、夜もよく眠れぬと言う。
眠っても眠りは浅く、その夢見すら良くないらしい。
睡眠と食欲は身体の資本だ。
それが傾けば当然体も悪くなる。
次第に疲弊していく様が傍目にもよく分かるほど。
今はまだ若さで保っているようだが、いつか今度は幸村の方が倒れてしまうのではないか、と。
周囲の者達は皆その余りの変わりように心配をしていた。
そんな状態の幸村に直接心を配れるのは近くに接する真田の者で。
皆少しでも効果があればと、食事に関しては厨の者が消化の良いものを選んで出したり、そうでないものも食べやすいように調理方法を変えてみたり。
或は好物であった甘味などを差し入れしてみたりと工夫した。
眠りは、下女が心が安らぐと言われる香を焚いてみたり、普段は匂い袋を持たせてみたり。
また疲れが取れるようにと忍達も按摩を申し出たりと甲斐甲斐しい。
しかし、どれも今のところ目立った効果はないようで。
せめて幸村が一番に心を許せる腹心の猿飛佐助が傍に居てくれればと思うのだが、その佐助は今は遠い西の国に偵察の任に出向いている。
中国近辺できな臭い動きがあるとの情報が齎され、現地へと向かったのだ。
偵察だけならば佐助でなくとも熟せようが、相手があの智将毛利元就とあっては万全を期すにこした事は無い。
よって佐助自らが出る事となり、以来連絡は未だない。
「佐助はまだ戻らぬか」
「未だ」
「そうか・・・」
その為、幸村に尋ねられても答えは同じで淋しそうな顔をさせるばかりである。
「だ、丈夫ですよ、幸村様。長に限って損じるなんて事はありませんから。直に戻って来ます」
肩を落とした幸村に、報告をした忍が務めて明るく言う。
その男は佐助に次いで近しい立場である忍の一人で、名を穴山小介と言った。
顔は幼く体躯は小柄だが、幹部の一人になる程には腕の立つ忍で、その小介にそう言われれば幸村も納得するしかない。
幸村も分かっている。
その言葉の通り、佐助が任務を仕損じると言う事は殆ど考え付かない。
あるとしたら伝説と名高い風魔が絡んだ時ぐらいであろうが、それでも佐助が劣るとは微塵も思ってはいないし、赴いた地を考えれば今回は出くわす可能性は低いと言えた。
つまり、佐助が返らぬ由は無いのだ。
ただ、動きが無く時間がかかっているだけなのだろう。
分かっているのに聞いてしまうのは己の心の弱さ故。
幸村が自身を納得させ、或は奮わせてそうだなと頷くと、小介が安堵したように笑う。
「それより、眠る前にまた肩を解しましょうか。僕、疲れが取れるツボってのを聞いたんですよー」
「明日は参議がおありとの事ですから。ゆるりとお休み下さいませ」
腕まくりをする小介に、仕度に来た下女も加わってあれやこれやと世話を焼く。
「気を使わせてすまぬな」
幸村が申し訳なさそうに言うのに、皆は揃って首を振る。
そんな言葉は必要ないと。
皆が望んでいるのは、ただ幸村が前のように暑苦しく雄叫びを上げながら元気に槍を振り回し、甘味を頬張って屈託なく笑うその姿だ。
幸村もそれは分かっている。
分かっているから、皆の望む通り仕度を終えると床に就く。
眠るのが怖い、などとは言ってはいられない。
* * *
昔は床に着けば瞬時に記憶が無くなり、気が付けば朝を迎えていた。
けれど最近は違う。
次第に意識が落ちていくのが分かり、それがやがて水中に代わり水底になる。
息苦しさを感じるのは唐突で、目覚めるのも同様だ。
しかし、その日は少し違っていた。
落ちていく感覚は変わらない。
しかし、それがふっと止まり、浮遊感も無くなった。
とうとう水底の最底まで至ったのだろうか。
不思議に思って目を凝らしてみると、そこには一面の青。
やはり変わらぬかと思うが、じきにやはり違うと分かる。
所々に在る青の中に白の斑模様。
少しずつ少しずつ形を変え、同時に皆同方向へ移動していくそれは、雲だ。
見える青は水面ではなく晴れ渡った青空だと気付いて、幸村は驚いた。
呼吸も苦しくない。
これはどうした事だろう。
少なくともここは水中では無く、ならば地上か空中か。
背にある硬い感触が示す答えは恐らく前者。
ぼんやり考えていると、青と白にまた一つ色が入り、視界に黒い影がさす。
「旦那、生きてる?」
影の正体は直ぐに知れた。
明るい空が逆光のようになって顔はよく見えないが、その声は聞き間違える筈がない。
佐助だった。
幸村は飛び起きた。
次第に慣れて来た目で目の前の男を凝視すると、切れ長の目も、すっと通った鼻筋も、そこになされた忍化粧も、茜色の綺麗な髪も、寸分違う事は無い。
己を見下ろしているのは腹心たる猿飛佐助その人だった。
「佐助!?何故ここに・・・!」
帰還の連絡は無かった筈。
まだ西国にいたのではなかったのか、と幸村は思わず尋ね、そうして後に思い出した。
これは夢だったのだと。
夢の中ならば佐助がどこに居ようともおかしなところは何もない。
しかし、気付いた時には言葉は既に発せられて戻らない。
佐助は当然怪訝そうな顔をした。
「何故ここにって・・・俺様はあんたの影なんだから、用でもなきゃいつも傍にいるでしょうが」
何を当たり前の事をとでも言いたげな、佐助の何でもない一言だった。
しかしそれが今の幸村には無性に嬉しく感じられた。
それだけで泣き出してしまいそうな程に。
何とかそれを堪えてそうだなと笑うと、突然瞳を潤ませ泣き笑いのような表情を浮かべる幸村に、佐助は更に訝しげになる。
額に手を当て、熱を計り。
あまつさえ頭でも打ったのかと尋ねる始末だ。
「大将も加減して欲しいよなぁ。これ以上とか勘弁して欲しいんだけど・・・」
佐助の言葉から察するに、どうやら自分がここに倒れていたのは信玄との殴り合いが原因のようだ。
吹き飛ばされ、ここに落ちてそのまま目を回していたのだろう。
それを佐助が回収に来たと言う所か。
しかし、これ以上とは何を指して言っているのか。
場合によっては非常に失礼な言い草だが、今はそれすら懐かしく思えて怒りは全く湧いてこない。
最近の佐助は幸村に大将としての自覚を促す為か、例え傍にいる時も前ほど気安い態度を取らなくなっていた。
それは仕方のない事だと分かっていたが、やはり少し寂しかったのだ。
そんな事を考えている隙に、佐助は幸村を抱き起こして土を払い、怪我が無いかを確かめている。
「顔は腫れてるけど、他は大丈夫そうかな。でも、一応典医に見てもらった方がいいかね」
「その必要はなかろう。どこも痛くはないぞ」
「その腫れでどこも痛くないって、それはそれで問題だと思うけど・・・」
幸村が返すと、佐助はその腫れているらしい頬を手の甲で撫でて苦笑する。
「まあ、大将とのあれはいつもの事だもんね」
そう言って、佐助はゆっくり歩き出した。
大丈夫だろうと言いながらも、振り返って何処か痛む所が出てきたら直ぐに言えよと念を押す辺りがやはり過保護である。
歩く佐助の後を追うと、やがて建物が見えてきて。
予想はしていたが、それは見慣れた躑躅ヶ崎の館だった。
手前の石壁は恐らく己がぶち抜いて壊したのだろう、一部分だけ壁がぽっかりと途切れており、
二人はそれを跨いで邸内へと戻る。
石壁を壊すなんてどれ程の威力か、と普通ならば思う所であろうが、二人には門まで行く手間が省けたな、程度の感慨である。
付近には、既に瓦礫を片付け始めている庭師がいた。
その奥には仕事中なのだろう、何かを運んで外廊下を歩く下女の姿も。
皆見慣れた武田の、躑躅ヶ崎の館で働く者達。
そして、その中心に。
「おぉ、漸く戻ったか!佐助、遅かったではないか!」
「お館、様・・・っ」
仁王立ちで迎える信玄の姿。
病の影など何処にも見当たらない。
その壮健な姿に、夢と分かっていても幸村は眼に涙が浮かぶのを止められなかった。
「どうした、幸村」
突然泣きそうに言葉を詰まらせて幸村に、先の佐助同様信玄も不思議そうにその異変を尋ねた。
それを佐助は横目で見ながら答える。
「遅かったのは旦那が気を飛ばしてたからですよ。おまけに、起きたらこの調子で何かおかしいし」
大将、力加減間違ったんじゃないの?
佐助が咎めるように言い、信玄も考え込んでしまうものだから幸村は慌てた。
幸村にとって、己の所為で信玄が責められるなどとんでもない事だ。
「いえ!すべては某の未熟故・・・!お館様の熱き拳、胸に響き申した!」
そう、咄嗟に言い繕うと信玄は佐助を振り返る。
その視線を言葉にするなら、いつもと変わらぬぞ佐助、と。
恐らくそんな所だろう。
佐助は肩を竦める。
「まあ良い。これからも精進せよ、幸村ぁぁぁ!」
「心得申した、お館様ぁぁぁ!!」
「は~い、そこまで!」
幸村、お館様、と再び叫び合い、殴り合いに発展しそうになる二人を、間に入った佐助が止める。
一応幸村は気を飛ばした後だ。
これ以上は看過出来ないと。
幸村としては生き甲斐とも言える信玄との拳の語らいを遮られて少々不服ではあったが、佐助が言うのであれば仕方が無い。
また、屋敷のこれ以上壊されたら困るのだと付け加えられればぐうの音も出ない。
ハッと気付いたように辺りを見廻す。
「す、すまぬ・・・」
今回は壁だけで済んだようだが、修理代も馬鹿にならないのだとは常から言われていた事だ。
夢とは言えまたもそうさせてしまったとあっては申し訳ない。
ただしおしおと項垂れるのみだ。
落ち込んで、素直に謝ると周囲で見守っていた皆が笑う。
「大丈夫ですよ、幸村様。我々の腕の振るい甲斐があるってもんだ」
「寧ろいい仕事が出来たってねぇ。甲斐で儲けたきゃ、左官屋になるのが一番かも知れませんな」
「それより、謝るなら勘定方にしておきなされ。この間も頭を抱えておりましたぞ」
一人が返せば皆続く。
その言葉は窘めるよりもからかいの色の方が濃いものだった。
皆が笑っている、懐かしい風景。
あぁ、嘗てあった日々はこんなにも幸せだったのだと。
幸村は泣きたくなって目を細めた。
ゆっくりと、目を開く。
まず視界に映ったのは見慣れた木目の天井だ。
あぁ、やはり夢だったのかと幸村は一つ息を吐いて身体を起こした。
最初から分かっていた事だったのでそれほど落胆はしなかった。
ただ懐かしさは胸に残って、眦は熱くなった。
お館様がいて、佐助が居て、武田の皆に見守られて。
何気ない日々はあんなにも幸せなものだったのだ。
「幸村様」
目頭を押さえていると、不意に廊下から声がかかる。
下女が起こしに来たようだ。
もうそんな時間なのかと幸村は少し驚いた。
最近は夜明け前に目を覚ます事も多く、誰かが来る前に起きている事が殆どだったからだ。
しかし、今日は夢見が良かった所為かいつもよりも起きるのが遅かったらしい。
既に陽の光が障子を照らし、下女の影がそこには濃く映し出されていた。
「うむ」
幸村が返事をするまでは彼女が障子を開ける事は決してない。
幸村は頷いて外に合図を送ってから立ち上がる。
すると了承を得た下女がそっと障子を開く。
朝日が部屋に差し込み眩しかった。
佐助がいない時は己で身支度をする幸村なので、下女は用意した着物を室内に入れると後は礼をして下がるのみだ。
しかしこの日は幸村の様子の違いに気付いたようで、顔を上げるとあらと少し驚いたように目を見開いた。
そして尋ねる。
「今日は、お顔の色が少し宜しいようですね。ゆっくりお休みになれました?」
それ程にいつもと違うのか。
それともいつもが余りに酷いのか。
分からぬが、幸村は苦笑して一つ頷く。
「少しな。いい夢を見たのだ」
「それはようございました」
それ以上深くは触れずに、下女は口元を着物の袖で隠して笑った。
「その調子で朝餉もお取りになって頂ければ、厨の者が喜びますよ」
真田は人の入れ替わりが少ない方で、務める者も長年の者が多い。
この下女も父の代からいる者で、幸村とも幼少から見知っている所為か口調は近しく見守るようなものだった。
幸村は笑って答える。
「善処しよう」
「まあまあ!でしたら直ぐにご用意致しますね」
その言葉に、下女は幸村の心が変わらぬ内にとパタパタと廊下を駆けて行く。
普段は物静かな女性なのだが。
余りの浮かれた様子に幸村はまた笑う。
転ばぬようになとその背に向かってかけた声は届いたのかどうか。
分からなかったが、大きな物音は聞こえなかったので大丈夫だったのだろうと、幸村は置かれた着物に手を伸ばした。
その日の朝餉は半分程には手が付けられた。
以前と比べると遥かに劣るが、最近の内では良い方だろう。
城の者達は諸手を挙げて喜んだ。
幸村の調子が少しよくなりこのまま良い方向に進めばと誰もがそう思ったのだが、現実はそう甘くはなく。
その矢先に忍隊から国境を任されていた臣に裏切りの気配有りとの情報が齎され、予定されていた参議は急遽軍議へと変わる事を余儀なくされた。
そしてその臣の名を聞いて幸村は驚く事となる。
離反は初めてではないが、今までは仕えて日の浅い者ばかりであったのである程度は想定の範囲内での事であった。
しかし、今回名が挙がったのは武田に仕えてもう長い。
真田家よりは後であるが、幸村に代替わりするより前には武田にいたので幸村にしてみれば自分よりも長く武田にいる者であった為、その衝撃は大きかった。
忍隊の働きのおかげで事前に発覚した今回。
何とか引き止められはしないかと幸村は願ったが、他国と何度かやり取りをしているようではそれは既に難しい。
おまけにその者に託していたのは前述の通り国境だ。
ここで甘い判断を下せばまた大きく領土が損なわれる事となり、武田に大打撃を与える事となるのは必然であった。
ともすれば、今残る武田の結束すら揺るがしかねない。
国の事を考えれば切り捨てるしか他は無い。
道が決まれば後は事が起きる前に動き出すが良策。
その日のうちに軍議を纏め、忍隊からの他国不義密通の証拠を得て、数日の内に幸村は少数精鋭でその地へ向かい離反を事前に抑える事に成功した。
身内での事だ。
本来ならば総大将自ら動かずとも良かったのであろうが、そこは己の不始末にけじめをつけるべきは己であると幸村が聞かずにそうなったのだった。
そうして事態が終息し、迅速さが功を奏した為今回は領土を減らす事も無くまた他国への牽制も含めて最善の形で収められはしたものの、しかし幸村の落ち込みようは常になく激しいものとなった。
古参の臣の離反。
状況を鑑みれば仕方のない事だが、その地の新しい領主の選定や付近の警備強化等、諸々の対応を熟し乍らも、ふとした時に零した一言。
「某が、もっとしっかりしていれば、あの方も武田に仕え続けてくれていたであろうな・・・」
鞍替えなど考える事など無かった。
武田の大切な臣を自分の所為で失ってしまったと不甲斐なさに俯く幸村に皆言葉を失う。
離反したその臣が、もっと己の利だけを考えるような輩であれば良かった。
ただの下剋上であったならば、楽に斬って捨てられただろう。
しかし、その男は幸村が来た時に何も言い訳をしなかった。
ただ申し訳ありませんでしたと頭を下げ、不義は己の独断で責は己一人のものであるから、家族や他の者達は見逃して欲しいと懇願した。
本心から願って武田を裏切ろうとしたのではなく、お家の存続の事を考えての判断だったのだろう。
武田が行く末を危ぶまれるような事がなければ、つまりは自分がもっとしっかりとしていれば、今回の離反は無かったのだ、と。
幸村はそう考えていた。
そんな背中にかける言葉を持つ者は無い。
そんな事はないと言葉にするのは容易いが、上辺だけを慰めた所で何の意味も有りはしないと分かっていた。
そも幸村自身が慰めを求めてはいなかった。
結局、自身で折り合いをつけ乗り越える他はないのだ。
殆ど手を付けられることなく謝罪と共に押し戻された膳を片付け、褥を整えながら願う下女の心はこの城の者皆の総意だ。
せめて心安んじてお休みになれればいいのだけれど、と。
そんな城の者達に、幸村は一言すまぬと詫びて静かに閨の障子を閉めた。
* * *
甲斐の国、武田の皆が本当に好きだと幸村は思う。
勿論最たるは信玄ではあるけれど、そうでなくてもこの国を護りたいとはずっと昔から思っている。
親兄弟と共に過ごす時間が少なかった事もあり、暖かく見守ってくれる彼らは殆ど皆家族のようなものだ。
それを傷つけ、苦しめ、失くしてしまう己の未熟さの何と呪わしき事か。
その未熟さを克服するには、皆が安心して付いて来られるような大将となるには一体どうしたらいいのだろう。
悩みもがいても分からない。
そのような姿など、今の己には夢のまた夢・・・
「――大将!」
思考の渦に呑まれたままぼんやりとしていたのか、急に声を掛けられて幸村はハッと顔を上げた。
一瞬時系列が分からなくなり、混乱する。
ここは何処で、自分は何をしていたのか。
思って辺りを見廻すとどうやら己は馬上にいるらしく、揺られて上下する視界が常よりもかなり高い。
そしてその左下方に先ほど声をかけてきたらしい佐助がいる。
佐助は幸村を覗き込むようにして下からじっと見上げていた。
「ぼーっとしてどうしたのさ?」
カッポカッポと馬の蹄の音がする。
それは一つでは無く後ろに幾つも続いており、行軍中なのか振り返るとそこには大勢の赤揃えの武田兵達がいた。
幸村の馬の後ろに付く騎馬隊と、更にその後ろに歩兵達。
方々には忍隊の気配も感じるが、佐助は幸村の馬の手綱を引いているのかその脇を歩いていた。
また、これも先日のような夢なのだろうか。
「これから天下取りの大一番だってのに」
佐助の言葉に、幸村は先の己の予想が是である事を確信した。
武田が天下取りなど、今の状況では有り得ない。
それが夢と判じる要因だなどとは何とも情けない所であるが、紛れもない事実だ。
仕方が無い。
確信して、更に佐助の話を聞いているとどうやらこの夢は随分と時を遡っているらしい。
世はまだ足利が帝として統治しており、それが帝曰くの天政奉還とやらで放棄され各国が天下を狙って動き始めたのだと言う事だった。
そして武田もその中で同様に名乗りを上げたところだと言う。
しかも、幸村がそれを率いる大将らしい。
信玄が健在にも関わらず、だ。
己が率いる武田で天下取りに挑むなど、随分と都合のいい夢だと幸村は自嘲せざるを得なかった。
「大事な初戦だ、緊張しすぎてへまやらかさないでよ?」
そんな幸村の心を知らない夢の中の佐助は、からかうように軽口を叩く。
それを後ろの兵達がくすくすと笑う。
幸村と佐助のこんなやりとりも、幸村と信玄の殴り合いと同じように武田には馴染んだものなのだ。
戦前とは思えぬほどに空気が和やかなものになる。
佐助さんはまたそんな、と窘めるような苦笑交じりの声も聞こえる。
こんな未来を望んでいた、こんな自分になりたかったと言うならば、今この時は紛う事なき夢そのもので。
夢の中であるならば、これくらいは許されるだろうかと幸村は言葉を返す。
「愚問だぞ、佐助。俺を誰だと思っている!」
「・・・いや、真田幸村さんでしょ?」
「否、最強甲斐武田が大将、真田源二郎幸村也!」
わぁ、そいつぁ驚いた、と佐助が呆れたように返す。
皆が合いの手を入れながらどっと笑う。
これが現実なら良かったのに、と。
表面上は共に笑いながら、幸村は心の奥でそっと思った。
目が覚める。
外は薄っすらと明るくなり始めていた。
天井を眺め、起き上がらぬまま幸村は夢の事を思い出す。
笑っていた武田の兵達。
その幾人かは今はもういない面々だった。
一人は信玄が倒れて間もなく武田を去った。
一人はある負け戦で死んだ。
そして一人は――
昨日己がこの手で斬った。
何かが違えば、あのような、まさしく夢のような未来があったのかも知れない。
思うとやりきれなくて幸村は両腕を顔の上で交差させる。
暗くなった視界の中、もう一人、夢の中で共に笑った者を思い出す。
「佐助・・・」
思わず名を口にする。
佐助に会いたい。
今無性に、幸村はそう思った。
佐助はまだ戻らない。
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プロフィール
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早和
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自己紹介:
戦国BASARAの佐幸と真田主従と武田軍と西軍大好きなBASARA初心者です。
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。
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