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かなり前ですが、誕生日にむめい様から素敵なお祝いイラストを頂いたのでそのお礼と、偶々近かったお誕生日のお祝いにと書いたものです。
むめい様、その節は本当に有難うございました!そしておめでとうございました!
・佐幸
・戦国
【翠に宿るは】
真田昌幸が討ち死にし、幸村が次代の当主となった真田家には次々と祝いの品が届けられた。
何しろ真田家と言えば揃いも揃って智将と名高く、先代昌幸は信玄の片目と言われた程だ。
武田に所縁が深く、また幸村自身も荒削りながら信玄の覚えも目出度いと言う。
そんな人物に取り入るならば早い方がいいと、周囲が考えるのは自然の流れだった。
部屋の一つが箱で埋まる程の贈り物の数々。
その中にそれはあった。
何のへんてつもない、見た目はそこらの川底にでもありそうなただの石。
それが豪華な贈り物と一緒に贈り物として届けられたのだ。
形を加工した訳でも、磨いて輝かせた訳でもない。
それは贈り物とは到底思えない代物だった。
しかし桐の木箱に態々入れられ、薄い和紙で包まれて。
その底に添えられていた紙に拠ると、何とそれは願いを叶えてくれる石なのだそうだ。
成る程そう言う曰くがあれば、贈り物とされても不思議ではないかも知れないと検分した佐助は思った。
「何とも凄いものがこの世にはあるのだな!」
胡散臭さはあるが特に害がも無い様なので、他の検分済みの物と一緒に幸村に見せると、単純な彼はそう感嘆の声をあげた。
即座に信じた幸村に佐助は呆れる。
そんなもの。
「いやいや、どう考えても眉唾物でしょう」
佐助にしてみれば到底信じられるものではなかったが、幸村は目をキラキラと輝かせてそれを身に付けたいと言い出した。
まさか本当に願いが叶うと思っているのだろうか。
尋ねると、本当かどうかは分からないが、とにかくその石を気に入ったのだそうだ。
理由はその色らしい。
綺麗とは言い難いが余り見ない緑色。
「お前の装束の色だ!」
幸村は笑った。
加工していないものだからか所々に茶色や他の色も混じり、その斑模様が益々佐助の様だと言われて面映ゆい。
佐助にしてみれば磨いて混じった色など削ってしまった方が綺麗だと思うのだが。
しかし、そんな風に言われてしまえば強く反対も出来なくて、佐助は仕方ないと言う体を装い頷いた。
内心では盛大に照れながら。
まあ、断定は出来ないが恐らくその石は翡翠なのではないかと思われたので、それならば魔を払うと言われているし御守りとしては悪くないかも知れない。
そう考え、幸村が手に取ったそれを佐助もよく見てみようと幸村から借り受けるべく手を伸ばしたのだが。
そうしようとした瞬間、その指が石かはたまた幸村の手にか触れた刹那、突然石がボンッと爆発音を発し、同時に煙が吹き出した。
幸村が驚きの声をあげる。
佐助も慌てて幸村を呼んだ。
「旦那!」
叫んで咄嗟に幸村に覆い被さりその身を庇う。
油断した、と佐助は歯噛みした。
只の石に見えたが、煙玉だったのか。
それとも毒霧か。
どちらにせよ幸村がその煙を吸わぬ様己の装束で遮る為に頭を抱え込みながら顔を胸に押し付ける。
そして空いた片手で膝下を掬うと横抱きに抱き上げて障子を蹴破り外に飛び出す。
とにかく煙の届かない所へ。
それだけを考え佐助は高く跳躍し、庭の端まで一気に跳んだ。
そして、ここまで離れればもう煙は届かないと。
澄んだ空気を確認して漸く幸村を抱いたまま足を止めた佐助は、距離をとったその位置から次第に煙が晴れていくのを慎重に見つめていた。
臭いや身体の状態など、自分の感じた限りではどうやら毒では無い様だが。
しかし佐助が知らないものである可能性も無ではない。
何しろ佐助の検分の目をすり抜ける程のものだ。
慎重に越した事はない。
「旦那、大丈夫?」
「ああ。大丈夫だ」
抱き締めたまま尋ねると、胸元で頷く気配があった。
装束に押し付けられている所為でくぐもった声ではあるが、取り敢えず返事がある事に安堵する。
意識はあるようだ。
声もしっかりしているし、大丈夫だろうかと一瞬考え、しかし妙にその返った声が高い気がして佐助は首を捻った。
煙を吸った影響だろうか。
しかし、それにしては抱く身体にも違和感が。
抱えた時の重さが何だかいつもよりも軽い気がしたのだ。
不信に思って腕の中の主を地に下ろし、改めて眺めて佐助はギョッとした。
「佐助?」
どうしたのだと此方を見上げるいつもより大きな瞳。
自然と上目遣いになっているのは背丈が佐助の胸元までしかないからだ。
大柄ではないとは言え幸村も平均的な青年並の身長は持っていた筈。
つまり――縮んでいるのだ。
幸村が小さくなっている。
何度か目を瞬かせ、改めて見てみるがやはり現実は変わらない。
「う、嘘だろ~・・・」
佐助の叫びに呼応する様に幸村が身に付けていた防具がずるりと落ちた。
全く信じがたい事態だ。
頭が痛い。
佐助はズキズキと痛むこめかみを強く押さえ、深い溜め息を吐いた。
「これは一体どう言う事だ…」
その正面では幸村が腕を組んで唸っている。
既に煙は晴れ、異常がない事も忍隊に念入りに調べさせはしたものの、万が一を考え移動した幸村の部屋。
そこでまず佐助がした事は何より先に幸村を着替えさせる事であった。
今の幸村に普段の戦装束は大きすぎる。
押し入れの奥から古い衣装籠に入れてとっておいた弁丸の着物を引っ張り出して着付けてみればそれはぴったりであった。
今の幸村はどうやら10歳程度の体躯らしい。
小さい子どもが大人然としてむぅ、なんて考え込んでる姿は微笑ましいのだが、今はそれよりも疲労が勝る。
何を願ったかは知らないが、よもやこの様な現象が起きるなんて。
俄には信じがたい。
しかし現実に幸村はこうして縮んでいる訳で。
また添え紙をよく読むと叶う願いは大衆に影響のない個人に関するもののみで、その効果は一日程度との事らしく。
それをそのまま信じる訳ではないが、詳細を忍隊に調べさせている現状では他に特別な手立ても無い為、取り敢えず今日一日は様子を見ようと佐助は諦める事にした。
念のため、付きっきりで様子を見るつもりではあるのだが。
「ちょっとでも身体に違和感があったらすぐ教えてよ?」
「分かっておる」
「何か顔赤くない?熱とかないだろうね」
「大丈夫と言っておろう」
心配で、入念に言い含めると幸村は拗ねた様に唇を尖らせた。
「佐助は心配性過ぎるのだ」
心配するのは幸村が無茶ばかりするからなのだが。
当の本人は佐助の心など露知らず、俺はもう子どもではないと言い張った。
最近の幸村はよくこの言葉を佐助に言う。
昌幸が死んでからは特にそうだ。
佐助が口を挟む度に事ある毎に使っている気がする。
自分が真田を守っていかなければと、大人たらんと言う気概の表れなのであろうが。
佐助それを言われる度に何やらもやもやとした思いに囚われていた。
元服も済んでいる幸村は、確かにもう子どもではないけれど。
しかし、今は。
佐助の目がキラリと光る。
「残念だけど、今のあんたは子供なんですよ!」
だから熱を測らせろと膝に抱き上げて強引に額を合わせる。
幸村は当然抵抗したが、佐助はその抵抗を綺麗に無視して大人の腕力で動きを塞いだ。
熱はいつもよりは多少高い気はするが、微熱と言うよりも子供体温と言う様なものだ。
その為心配は直ぐに失せたがそのまま暴れる幸村と大騒ぎ。
ぎゃいぎゃいと取っ組み合いには至らぬ程の細やかなじゃれ合いになる。
しかし、それは然程長い時間ではなく。
子供に戻り大人に比べて明らかに体力の無い幸村の方が先に音を上げ、軍配は容易く佐助にあがった。
そうして疲れきりぐったりした幸村を膝に抱いたまま佐助はあやす様に背を軽く叩きながら告げる。
「一日だけなんだから、今日くらい子供に戻って甘えたっていいじゃない」
口にして佐助は思う。
願いを叶えると言う石。
その願いとはこれだったのではないだろうか。
佐助の推測が正しかったのか否か。
それは幸村にしか分からないけれど。
「…今日一日だから、な」
幸村は渋々を装いながらも素直に抱きついてきたので、佐助はその身体を抱く腕に力を込めたのだった。
佐助に抱かれたまま、心地が良かったのかいつしか眠ってしまったらしい幸村と、今日は甘やかすと決めた為か珍しく添い寝をしてやっている佐助。
そんな二人を近くで見守る忍達は語り合う。
「見たか、あの長の顔」
「緩みきってましたね」
あれが天下に名を馳せる猿飛佐助だと誰が思うか。
見ている此方が恥ずかしくなると皆は揃って溜め息を吐いた。
「幸村様に甘えろとか言って、ホントは自分が甘えて欲しいだけですよ、あれ!」
「幸村様が甘えなくなってから、明らかに物足りない様な不満気な顔してたからな」
佐助は一方的な様な口振りだったが端から見ればどっちもどっち。
果たして石が叶えた願いはどちらのものだったのか。
佐助の方であれば癪に障るが。
「まぁ、幸村様が幸せならいいんだけど」
主大事の忍達は仕方ないと頷いて、この一日がせめて穏やかに過ぎるようにと二人を見守ったのだった。
終
むめい様が以前あげられていた「ぶかぶか真田」が可愛くて思わず・・・
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。