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愛嬌、愛らしさ、懸命 静かな思い
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5月7日の幸村の命日に。(遅刻)








・佐幸
・現代転生
※何でも許せる方向け


君は知らない。
己のあの日の絶望を。
そして今日への渇望を。
己がどれ程この日を待ち望んでいた事か。

きっと君は――










「おぉ!今日は随分と豪勢なのだな!」

一日の終わり。
風呂から上がった幸村が、リビングのテーブルに並んだ料理の数々を見て声を上げる。
その口は笑みを象りながらも今にも涎を垂らしそうに緩んでいる。
当然だ。
今机に並べられている夕食は、佐助が朝幸村を学校に送り出してから半日かけて作り倒した彼の好物の山なのだから。
余りの豪華さに何か祝い事でもあっただろうかとカレンダーに目を向ける幸村。
しかし思い至らぬ様で頻りに首を捻っている。
そんな幸村の様子に佐助は思わず苦笑を漏らす。
気付かないのも無理はない。
今日は祝い事どころか寧ろ逆で。
今日、五月七日は遥か昔大坂の陣でその勝敗が決した日。
彼の地大阪で幸村が徳川軍に討たれ死んだ日だった。

幸村の命日である五月七日は祝い事どころか佐助にとっては深いトラウマを刻んだ日だ。
届かない手。
失われていく体温。
今も思い出すと心臓が凍る様で、その場から動けなくなってしまう。
おかげで佐助は毎年この時期になると体調を崩し、家に引き籠る羽目になっている。
そのやつれた様たるや。
幸村も病院に行けと言う程だった。
と言っても原因は分かり切っている為、その進言を聞き入れた事は未だ嘗て無かったが。
過去のトラウマが原因である以上薬など意味がないと知っていたし、万が一入院などと言われた日には。
幸村と離れなければならない生活に、そちらの方が佐助には耐え難かった。
一分一秒でも彼と離れる事に不安を覚える。
姿が見えないと焦燥を感じる。
故に家に引き籠り時が過ぎるのを待つ事だけが唯一の、そして最適な解決策なのだと佐助は誰より知っていた。

しかし今年は少し違った。
否、実際今年も七日の朝までは同じ様に体調を崩し、家に引き籠り、そうして過ごしていたのだが。
七日の朝、幸村を学校に送り届けてからはいつもと少し違っていた。
今年だけは特別だ。
だって今年の幸村は高校三年生になった。
つまり今の彼は十七歳。
前世の彼が死んだ年齢と同じ歳となったのだ。
十七歳の幸村が五月七日の日を越える。
佐助はこの日をずっと待ち望んでいた。
そしてとうとうその日を迎えたのだ。
そう思えば引き籠ってなどいられない。
結果、帰りがけに大量の食材を買い込み朝から料理に励んでしまった。
これまでの寝不足も、落ち込んでいた気分も一気に遥か彼方だ。
現金な事である。
そうして朝から黙々と料理を作り続け、夕方に幸村を迎えに行き、帰宅後すぐに風呂に押し込んだ幸村が出てきた所で今に至る訳なのだが。

「朝から頑張っちゃった!どう、旦那?嬉しい?」
「朝から!?いや、嬉しいが…お前、昨日まであんな寝込んでいたと言うのに…」
「平気だって。まだデザートにケーキもあるから楽しみにしててね!」
「もうこれだけあれば十分だから。余り無理をするな」

少し休め、俺よりお前こそ何か少し食べろと。
昨日までの佐助を知る幸村は、朝から佐助がこの料理の山を作り続けていたと知るや、喜色から一転酷く心配気になった。
大丈夫なのに。
自分の心配なんていらないのに。
だって今は何よりもこの日を祝いたくて堪らない。
心が弾んで今なら何でも出来そうだ。

「他に食べたいものはない?今からなら何が作れるかな…あ、餡子があるからお団子とかどう?御手洗も作れるよ?」

作るなら喉に詰まらせない様に形は少し小さめにして。
串は危ないから刺さないままで。
浮かれた佐助は頬張る幸村を思い浮かべ、さぁ作るかと立ち上がる。
が、その瞬間急に目の前が点滅し体が傾くのを感じた。
眩暈だとは直ぐに察した。
咄嗟に何かに掴まらなければとも思いはしたが、腕が思うように上がらなかった。
大丈夫だと思ったのに。
気持ちだけでは体は無理がきかなかったらしい。

「佐助!!」

周囲の音も遠くなる。
なのに幸村の叫びだけはしっかりと聞こえ、狭まる視界をそちらに向けた。
白く霞む視界の先。
此方に手を伸ばす幸村の姿が見える。
その表情。
今にも泣き出しそうなその顔を、何処かで見た気がすると既視感を抱いた。
一体何処で見たのだったか。
しかし記憶を探る時間はなかった。
それより先に視界は白から黒に塗り潰される。
もう一度幸村の叫びが聞こえ、佐助の意識はそこで途切れた。











夢を見た。
広い平原に立ち上る煙。
大勢の人間を掻き分けるように屠りながら佐助は戦場を駆けていた。
夢と分かった理由はそれが既に何度も見たものであるからだ。
結末も既に知っている。
それは遠い過去の夢。

混沌とした戦場で幸村と距離が出来てしまい佐助は只管に走っていた。
向かう場所に迷いはない。
騒乱の只中だ。
そして漸く彼の姿を視界に捉える。
しかし安堵したのも束の間、彼に幾つもの銃口が向けられている事に気が付いた。
叫んで、駆ける。
手を伸ばす。
しかし僅かに足りなかった。
時間が。
力が。
彼を己の影に逃がしたかったが術の発動までには至れなかった。
一発目の銃弾は身を盾にして防いだけれど、四方から撃ち込まれる続くそれらを防ぎきれずに目の前に彼の鮮血が散った。
真っ赤なそれを一瞬華のようだと思った。

己も彼も致命傷で、生き残れない事は分かっていた。
それでもせめて、欲に塗れた数多の手に彼の首を渡してなるものかと。
それだけは強く思って彼の体を抱いて影に沈んだ。
このまま死ねばもう浮き上がれないと知りながら。
冷たい影の中、唯一の熱源であった腕の中の体が徐々に熱を失っていく。
その絶望を覚えている。
守れなくてごめん。
こんな冷たい場所で死なせてごめん。
次にまた一緒に在れた時には、今度こそ。
温かく、明るく、幸せな場所で。
思い抱いた体は冷たかった。



ここまでが夢。

しかし手の平に触れたのは熱だった。










温かい。
そして明るい。
夢から覚めたのかと佐助は瞼を持ち上げた。
何度も見た夢だからこの感覚には慣れている。
この時期は常に幸村の気配を感じられるようにとリビングで横になる事も、傍にいる幸村に触れて目覚める事も多いので。
明るいのも温かいのも、それ自体はいつもの事と特に驚く事はなかった。
しかし今日は加えて痛みを感じて違和感を覚える。
背中と右手。
その部分が妙に鋭い痛みを感じた。
夢を見る直前の状況を思い出し、前者は恐らく倒れた時に打ったのだろうと予測がついた。
だが後者の右手が分からずに、何だろうかとそちらに視線を向けると泣きそうな顔で此方を睨みつける幸村がいた。
彼に強く握られた手。
感じた痛みの原因を理解し佐助は思わず口を開いた。
――が。

「だ…」
「この、馬鹿者!!」

呼びかけようとすると、それを遮り怒鳴られた。
そしてそれが切っ掛けとなった様に幸村の目からぼたぼたと涙が零れ落ちた。
佐助は慌てた。
幸村の泣き顔など久しく見ていなかったから。
その涙を拭おうと咄嗟に握られた手を持ち上げようとすると、拒む様に更に強い力で握られた。
まるで人混みで母と逸れぬ様にと必死な幼い子供の様。
否、寧ろ激流で離ればなれにならぬようにと死に物狂いな溺れた人の力だった。

「だから少し休めと言ったではないか!ずっと食わず眠らずの所に朝から動き回ればこうなる事くらい分からぬお前ではないだろう!」

泣きながら憤懣遣る方ないと言う様子で幸村は佐助に向かって怒鳴った。
倒れて呼びかけても目覚める様子の無い佐助にどうしたらいいか分からず、不安な時間を過ごした彼の心境を思えばそれは致し方ない事で。
佐助は黙ってそれを聞いた。
と言うかどれぐらいの時間己は気絶していたのか。
気になり時計を探して見ると、時刻は既に十二時を過ぎていた。
当然日も跨いでいる。
つまり今日はもう五月八日。
十七の幸村は五月七日を越えていた。

「旦那!」

何だか知らぬ間に過ぎてしまっていたのは残念な気もするが。
ともあれ良かったと今度こそ起き上がり幸村に呼びかけた佐助は、しかしバチンと頬を叩かれた。
両頬を。
挟むような形で食らった平手は痛かったが、拳でないだけましだったのかも知れない。
そしてそうしたのは単に倒れた佐助の体、特に頭に衝撃を与えない様にとの配慮であり、心情的には殴り飛ばしたかったであろう事は彼の顔を見れば明白だった。
そして言葉も。

「お前だけだと思うな!」

幸村はそう言った。

「この日に!お前が!目の前で倒れて!俺が…どんな気持ちだったか…っ!」

倒れる前の幸村の顔を思い出す。
あの悲壮な顔。
夢から覚めたばかりの今ならあの時感じた既視感の理由が分かる。
そして幸村の言葉の意味も。
あれは夢で見たあの最期の時、佐助が一発目の銃弾から幸村を庇った時の顔と全く同じものだった。

幸村を失ったあの時、自分は絶望に堕とされた。
それは間違いないものだった。
けれど自分だけではなかったと知った。
この日、この歳で、失ったのは佐助だけではなかった。
二人はどちらが先かも分からず死んだ。

「お前が俺を庇って銃弾を受け、手を伸ばしても届かず、共に沈んだ影の中で唯一温かかったお前の体温が少しずつ消えていくあの心地を…」

覚えているのは幸村も同じだ。
失ったのも。
彼もまた佐助と同じ思いをこの日に感じていたのだった。

気付いて申し訳ないと思った。
と同時にあれ、と思い期待を抱く。
あの日の己の深い絶望。
それと同じものを幸村が感じていたと言うのなら、それはつまり?
己が幸村に抱くのと同じだけの熱量の思いを、幸村もまた持ってくれているのだと。
そう言っているようなものではないか。
そうだと彼は知っているのか。

「知ってる?」
「知っておるわ、馬鹿者!」

その疑問を投げかけると、即答と同時に挟まれていた頬を抓られた。
そして先の怒りよりは幾分収まったかのように、少し拗ねた顔で詰られる。

「お前こそ知らぬであろう。この時期、毎年死にそうになるお前を俺がどんな思いで見ていたか…」

全く元気な己と違い、酷くやつれた様子の佐助に本当にこのまま死んでしまいやしないかといつも不安だったのだと。
そう語る幸村。
佐助は驚いた。
この時期は自分も余裕がなかったからそんな幸村の気持ちには全く気付く事が出来なかった。
大丈夫かと苦笑しながら傍にいてくれた幸村が、実はそんな思いでいたなんて。

「ごめんね…」

頬を抓る手に己の手を添え、謝罪の言葉を口にしながらも佐助の口端は自然と緩んだ。
だってこんな、幸村の己に対する想いの強さを知ったら。
こんなの喜ばずにはいられない。

でもそれも許してほしい。
だって、あの絶望が同じだと言うのなら。

「でもさ、じゃあ…これから一緒に生きていける嬉しさも同じって事…?」

共に失った歳を、日を越え、その先をも共に歩む未来を望んで行けると。
それが許されるのかと。
問えば幸村は当たり前だと頷いて。
その笑顔を見て佐助は思う。



貴方のその言葉が己にとってどれ程嬉しいか。

きっと君は――





【君は知らない】





















「だから知っておるわ!」ってまた幸村に怒られる。
個人的に気にして欲しい小さいネタは、七日の内だからと何だかんだ不安が拭い切れず幸村の学校の送り迎えをしていたり、お団子を危険視している佐助です。
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戦国BASARAの佐幸と真田主従と武田軍と西軍大好きなBASARA初心者です。
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。
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