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愛嬌、愛らしさ、懸命 静かな思い
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先日真田主従のタペストリー欲しさに日帰りで上田(長野)旅行へ行ってきたのですが、その際に新幹線の中でもそもそ書いておりました。
「熱の所在」と若干繋がってる所もあり。
読まなくても不都合は然程ないと思われます。











・佐幸(幸村不在)
・戦国
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【朱に交わらぬ】








ふと意識が浮上する。
しかし直ぐに目を開く事はせず、忍の習性として佐助はまず周囲の様子を伺う。
人の気配はない。
それを確認した上で漸くゆっくりと瞼を開く。
広がるのは見知らぬ空間。
失敗した。
佐助はぐるりと首を回し、深く溜め息を吐いた。





一月程前、部下が信玄暗殺の情報を掴んだ。
未確定だが何かあってからでは遅すぎる。
また国主暗殺など大それた目論見ならば相手もそれなりに大きなものである可能性が高い為、信玄を崇拝する幸村の願いもあり忍長である佐助自ら人頭に立ち周辺諸国を探っていた。

只の噂ならそれでいい。
逆に本当ならば即座に潰す心積もりで。
そうして諜報を重ね、漸く噂の出所が判明したのがつい先日。
塒も割り出し佐助は直ぐに向かったのだが、どうやらそれは相手の罠であったらしく佐助は上手く誘い込まれた。
忍び込んだ部屋の天上裏に予め香が焚き染められていたと、気付いた時にはもう遅く、意識が鈍った所を襲われ佐助は捕らわれた様であった。



全くもって情けない。
真田忍の長ともあろう者がと佐助は自責の溜め息を吐く。
早い解決を望んで焦りすぎただろうか。
こんな下手をうつとは。
しかし後悔しても始まらないと、取り敢えず外に出る手段を探るべく佐助は周囲を念入りに見廻す。
しかし、見た所出入口などの外に繋がるものはこの部屋には見当たらず、突破口は見出だせない。
本当に蓋も何も無い、ただの四角い箱に閉じ込められている様なのだ。
どうやって入れられたのかすら分からない。
また特殊なのは部屋の形状だけでなくそれを囲む四方八方の壁や床、天井も同じ様であった。
どう言う原理か術を使おうとすると跳ね返ってくる仕様になっている様で、得意の影潜りも試してはみたが使えなかった。
そも佐助を拘束もせずに部屋に転がしてる時点で脱け出す事は恐らく出来ない作りになっているのであろう事は容易に予想が出来て。
ならば無駄に動いて体力を消耗する事は得策ではないと佐助は部屋の壁に背を寄りかからせ腰を下ろした。

そしてする事もないので考える。
何故自分はこの様に捕らわれたのだろうかと。
忍が生かされたまま捕らわれる事は稀にあるがそれは情報を手に入れる為だったり、或いは見せしめだったりと、主には拷問が目的の時だ。
しかし今回の佐助が置かれた状況は部屋の形状を鑑みるに監禁が目的の可能性が高い。
忍を拉致監禁など、正直聞いた事がなかった。
何故なら忍はその身自体には何の価値もないからだ。
生かし捕らえてみたところで人質にもなりやしない。
否、忍を人と扱う幸村相手ならば有り得なくもないかも知れないが。
今回の標的は信玄だった筈だ。
信玄も忍を酷く扱う事はないが、それで脅しや取引に応じる程には甘くも愚かでもない。
それは周知の事実の筈だ。

では何故自分は殺されてないのか。
こうしてじっくり考えると何か今回の件は色々おかしい事が多いと佐助は訝しむ。
おかしいと言えばこの部屋もそうだ。
ただ出入り口が無いだけではない。
色が壁から床から天井まで、一面緑色をしているのだ。
この色が、或いは塗料が術を使えなくしているのだろうか。
そんなものの話は聞いた事がないが。
佐助の能力が驚異ならばさっさと殺せばいいだけなのにそうはせず、態々力を封じてまで生かしている。
その目的は何なのか。
もしかして、交渉の相手は信玄でなく幸村なのだろうか。
幸村に取り引きを持ち掛ける為だと言うなら佐助を生かして捕らえていると言うのも頷けるが。
しかしならばその取り引きの内容は何なのか。
幸村も単純で考えなしではあるけれど、武士としての分別は持っている。
流石に信玄と佐助を天秤にかける事は幾ら彼でもしないだろう。

「何かややこしいな」

佐助は呟く。
そして考えた。
もっと話は単純なのではないか
例えば目的が信玄ではなく最初から幸村であるとか。
信玄暗殺の噂も故意に掴まされた嘘のものだと。
佐助を生かして捕らえたのは幸村を誘い出す為だとしたら。

「でもあの人なら、人質殺した上でものこのこ呼ばれて出てきそうなもんだけどなぁ・・・」

何かすっきりしないと佐助はゴロリと仰向けに寝転がる。
もう一つ情報が足りていない気がするがそれを探す術が今の佐助には存在せず思考は其処から進まない。

進まぬ思考は余所へと逸れて、自然と幸村の事へと終着する。
考えれば彼に会いたいと強く思う。
今は何故か無性にあの紅の炎が見たかった。










それから何の動きもないまま時は過ぎた。
外の様子が分からず空も見えない為正確な時間は分からないが、体感で恐らく3日程度は少なくとも経っているのではないかと思われた。
拷問の訓練でこうした状況にも慣れている筈の佐助だが、何か変な心地がした。
気持ちが何処と無く落ち着かないと言うか。
闇の中で一月耐えた事すらあると言うのに。
何故今回はこんなにも焦りの様な気持ちが湧いて来るのか。
考えられるとすればやはり部屋の色だろうか。
緑に何か意味があるのか。
木々の葉の色であるそれは、寧ろ心を穏やかにしそうなものだが。
逆に気持ちが苛々する。
そんな気持ちのままに乱暴に頭をガリガリと掻くと、手を戻した際に鍵爪で頬を引っ掻いてしまいピリッと引きつるような痛みが走る。
ポタリと頬から流れ落ちる血。

「・・・あ」

拭って見た、瞬間の得体の知れない焦燥感。
何だ、と佐助は息を飲む。
全身の血が沸き立つ様で、急に汗が吹き出した。
同じようにしてその汗を拭うと先に手の甲についていた血が汗と混じって薄くなる。
すると更に強くなる焦燥感。
血が見たい。
強い衝動でそう思う。
まるで幸村と出会う以前に戻った様だ。
周りが全て猿に見えていた時の。
この部屋に捕らわれたのが己一人で良かった。
もし他に誰かがいたら、己はその者を殺していたかも知れない。
敵味方に関わらず。
しかし誰もいないと言う事は無駄に殺さずに済む反面その衝動に耐えねばならぬと言う事だ。
佐助は拳を強く握る。
力が入りすぎて鍵爪が掌の布地に食い込み肉を抉った。
血が滲む。
それを見てまた衝動が襲う。
その繰り返し。
もしかして敵の狙いはこれだったのか。
佐助を生かして捕らえたのではなく、この得体の知れない感覚を利用して殺そうと。
気付いて目を瞑っても遅かった。
血の見たさに目を開き、同時に部屋の緑も視界に入りまた血が見たくなる。
飢餓感に似たそれは喉を競り上がり佐助はガリガリと喉を掻く。
鍵爪はつけたままだ。
鋭いそれが皮膚を傷付け其処からも新たに血が噴き出す。

「・・・っ、くそ・・・っ!!

血塗れの手で壁を殴るが其れぐらいでどうにかなるものでは当然ない。
噴き出す血は次第に量を増し佐助はずるずると壁伝いに床に倒れ込む。
己の血に塗れた床の上に沈む。
ああ、赤い。
焦がれたその色が誰より似合う人を思い浮かべ、佐助は微笑みながら目を閉じた。





動くもののなくなった部屋の外で、ガコンと重た気な音が響いた。
直後壁が横にスライドする様に動いたかと思うと一面丸々切り替わった所でそれは止まり、存在しなかった扉が表れる。
そして扉は開き一人の男が姿を見せる。
すらりとした体躯に立派な着物を纏った男。
年はまだ然程行っていない程度の、幸村よりは上であり、しかし佐助よりも行くかどうかと言う頃合いだった。

その男は表れた扉から部屋の中に入りはしたが、入り口から数歩の位置で立ち止まる。
足元には血溜まり。
それを嫌そうに眺めて顔を歪める。
しかしその血のただ中に動かぬ塊を見つけると口端を上げる。

「これが噂に名高い猿飛佐助、か・・・」

名高いと言いながらも声は真逆の侮蔑を含んで。
男は乱暴に足で塊を蹴り上げるとうつ伏せていたそれを仰向けにとひっくり返して見せた。
顔が見える様に。

「どれ程の男かと思ったが・・・・」

こんなものかと男は吐き捨てた。
同時に唾をも吐き捨てる。
その目には忍への侮蔑どころか憎しみさえ篭っている様に見えた。
その理由は。

「私の誘いを断って、こんな顔も普通の下賤の忍などを相手にするとは・・・」

忍は床の技も凄いと言うが余程具合が良かったのかと下卑た言葉。
それも死者に鞭打つ様に顔を蹴りつけながら。
言葉も、行動も、明らかな私怨。
全てが一本に繋がった。
そうと知れれば。



「あんま蹴らないでよ。確かに大した顔じゃないけど、うちの主様は気に入ってくれてるんでね」

生者は一人しかいない筈の部屋に別の声が響き渡る。
それは目の前に倒れている男の声。
死骸は動かぬのに声は聞こえる。
突然の事態に男は辺りを見廻しそのままずりずりと死骸から離れる様に後ずさった。
そして我に返り逃げようと咄嗟に出口に向かうが、死骸の下から黒い闇が飛び出し伸びて男が向かった出入り口を一足先にと覆ってしまった。
これでは外に出られない。
一体何が起きているのかと、振り返ると床に広がる黒い血の海から人が浮かび上がってきた。
それは倒れる死骸と同じ顔。
死んだ筈の佐助の姿であった。

「あんたが主犯か」

誰だっけと見覚えのない顔に佐助が尋ねると男は嫌そうに顔を歪め。

「この・・・忍風情がっ!!

そう佐助に向かって呟いた。
顔は見覚えが無いが、その台詞には佐助は聞き覚えがあった。
少し前、同じ台詞を聞いた気がする。
他ならぬ主の口から。



一月程前、幸村に文が届いた。
幸村はそれを一通り読んだが何やら意味が分からなかった様で、不可解そうに佐助にそれを見せてきた。
この方は何を言いたいのかお前は分かるかと言う様な事を言われた気がする。
相手は甲斐の同盟国の大名の一人で、躑躅ヶ崎館で幸村を見初めたらしい。
手紙は幸村を思った短歌で。
所謂恋文と言うものだった。
そう教えてやると、幸村は真っ赤になって狼狽えていた。
破廉恥なと言いながらも律儀に断りの返事を書いていたのを覚えている。
しかし相手は諦めなかったのかその後も何度かやり取りは続いていた様で。
しかしある時幸村が文を見て突然激怒した時があったのだ。
どうしたのかと理由を聞いた時にその台詞を聞いたのだ。

「あんた、真田の旦那にしつこく文送って、その中で忍風情がとか言った所為できっぱりさっぱり振られた人だ
「・・・っ、貴様!!

思い出したと手を叩きながら告げる佐助に男は殺気を迸らせ腰の刀を抜いた。
しかし佐助は気にも止めず。

「ああ、それでか」

漸く得心がいった様子で。

「お館様暗殺を臭わせてた割には武田より真田寄りにばっかり情報が集まるから変だと思ったら、そう言う事か

今回佐助が捕らわれたのも含め、目的はやはり信玄ではなく最初から幸村の方だったのだ。

「てか、寧ろ俺様

あくまで軽い調子で佐助が尋ねると男は激昂したまま刀を床に向かって突き立てる。

「そうだ貴様だ!!

否、正確には足元に転がっていた佐助の死体に向かって。
突き刺された瞬間それは黒い霞になって辺りに散り、やがて死体は消え去った。

「忍風情が上手く主に取り入りおって初心な人間は篭絡するのも容易かったであろうな!!

下戔の輩に体を弄らせるとは、虎の若子と言ってもただの好き者かも知れぬな、と。
男は嘲笑いながらそう言った。

幸村は文に一体何と書いたのか。
佐助は知らない。
幸村は最後の相手の文だけは佐助に見せずに燃やしたし、自分のも返書も結局見せてくれぬまま送った。
だから二人の間でどんなやり取りがあったかは知らないけれど。

「あ~やだやだ。振られた腹いせに惚れた筈の相手を悪く言う男って

小さい男だねぇと佐助は呆れた様に。
つまりはそういう事だ。
男は幸村に振られた報復に佐助を捕らえ、見せしめの様にして殺そうと考えていたのだ。
何とも下らない。
しかしまあ、矛先が幸村でなく自分に向いていたのは幸いと言えば幸いか。

「結構エグい方法だよね。外国の拷問だっけ

色の対の特性を使った手法。
緑の対の色は赤。
緑の部屋に閉じ込めると赤がみたくなり、発狂して血を求めて自傷を始めると言うのだ。
そして自殺に追い込むと言うもの。

「知っていたのか!?
「まあね」

驚く男に佐助は苦い顔で答える。
佐助がこの世で最も嫌悪している外国にも精通し南蛮語を用いる男。
奴に対する偵察で得た知識がこんな所で役に立つとは。
全くもって不本意だ。
しかしこの場を切り抜けたのだから今は深くは考えない様にして。

「・・・さて」

佐助はすっと表情を消して男へと向き直った。
突如変わった雰囲気に男も思わず息を飲む。

「振られる原因の俺様を単に殺したかったのか、それとも俺様を排除してから旦那に何かしようとしてたのか知らないけど」

一歩一歩と歩み寄る。
男も変わった空気に圧力を感じでその分背後へと後ずさった。

「お、おいおい!!誰か!!
「呼んでも無駄さ。この邸で今生きてるのは俺様とあんただけ」

部屋の扉が開いた時点で佐助が飛ばした影分身が男の部下は始末したし、それに。

「頼みの綱の将軍様も、とっくの昔に脱出済みさ」

逃がしたのは残念だがあの男は佐助が万全の状態ですら仕止めるのが困難な男だ。
数日監禁され体力の落ちている現状で深追いするのはリスクが大き過ぎた。
仕方ないと呟く佐助に男は驚く。
そこまで見抜いていたのかと。
しかし佐助としては当然の推察だ。

「たかが地方大名のあんたが、こんな大掛かりな仕掛け、後ろ楯がなけりゃ無理だもんね」

それが誰かまでは判らなかったが、出口の仕掛けでピンときた。
似た様な仕掛けのものを帝の城で見た事があったのだ。

「あの人も何なのかねぇ」

本人は幸村を殺そうとか武田を滅ぼそうとか言う意図は無い様だが。
悪意がない分厄介だ。
どうにも前の件で幸村に或いは佐助にも興味を持ってしまったらしく、今回も部屋の仕掛けからして恐らく同じ興味本意の実験なのであろうが。

「ほんっと、いい迷惑」

近く落とし前はつけに行かねばなるまい。
そう決意する佐助の隙をついて男が逃げ出そうとする。
しかし佐助が一歩早く前を遮り行く手を阻む。
そもたった一つの出入り口を塞いでいるのだ。
逃げ道はない。

「あんたがこの部屋に閉じ込めてくれたおかげで、確かに赤が見たくて仕方ないよ」

言いながら、佐助は武器を構えた。
赤とは即ち男の血だ。
遠回しに殺すと言っている様なものであった。
そしてその次の瞬間には辺りに血が飛び散っていた。
武器の動きを追う暇すらなく、男は床にうつ伏せた。
少し前の佐助の様に。
そして佐助の方も同じ様に飛び散った赤を忌々し気に乱雑に拭う。
赤が見たいとは言ったけれど。

「やっぱり、あんたみたいにくすんだ赤じゃ駄目なんだ」

佐助は言う。
きっと自分のだって同じ事だ。
だから佐助があの部屋で自ら命を絶つ事はない。

「俺様が焦がれる紅は・・・」

いつだって一つ。
目を閉じ笑顔と共に思い浮かべると尚一層思いが募る。

いつも以上に早く上田に帰りたいと佐助は思った。
















痺れを切らした幸村が忍隊引き連れてやってきて轟音と共に屋敷の入り口を破壊。
再会を果たすまであと僅か。




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戦国BASARAの佐幸と真田主従と武田軍と西軍大好きなBASARA初心者です。
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。
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