愛嬌、愛らしさ、懸命
静かな思い
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
バトパ配信されましたねー!!
私は出来無いので相変わらず皇をやっていますw
SSは七夕SSです!
間に合ってよかった!
・佐幸
・現代、転生(佐助記憶無し)
・七夕
※何でも許せる方向け
天の川は渡れない。
そんなのは誰が決めたとばかりに青年は勇み川に足を踏み入れた。
【渡らせの川】
年に一度、佐助は毎年同じ日に同じ夢を見た。
七月七日の七夕に同じ人と逢う夢を。
しかもおあつらえ向きに川を挟んでと言うシチュエーションなのだからまるで織姫と彦星だ。
但し向かい合う相手は華やかな着物を着た姫ではなく間違う事なく男だが。
己より幾分年上の青年はジャケットに具足と言う不思議な出で立ちをしていた。
更に両手には何故か槍を持ち。
おかげで折角のこの状況も恋人との逢瀬と言うより戦前の邂逅に見える。
ならば対峙する己が彼の敵か。
そう考えると途端に脳が拒否反応を示すかの様にそれは違うと訴える。
己は彼の敵ではない。
寧ろいるなら彼の傍らだ。
そう思いはするが大きな川は自力では渡れず。
結局佐助はいつも川越しに青年と向かい合っている。
「また今年も来てくれたのだな」
お互いの存在を認識すれば昨年と同様に青年が笑う。
その眩しい笑顔を見ていると胸が締め付けられる心地がして佐助はいつも一瞬言葉に詰まる。
懐かしく切ない様な、慣れ親しみ落ち着く様な。
この感覚は夢ではない現実世界でも何度か感じた事がある気がするが、それがいつ感じたものか今の佐助には思い出せず、ただ胸を焦がす思いにシャツを握りしめるしか出来ない。
「今宵も一晩話に付き合ってくれぬか」
そんな佐助の態度に気付いているのかいないのか。
青年は此方も毎年お決まりの言葉を告げて川の岸辺に座り込む。
佐助も倣って川の岸ギリギリに座れば了承の意を受け取った青年は嬉しそうに頷いて。
酒と甘味がないのが残念だと笑った。
そして一夜の宴が始まる。
二人の歓談は話をするのは専ら青年の方だった。
佐助は元々己の事を語るタイプではないし、青年が話す姿を見るのが佐助は何より好きだった。
年上の筈の彼が子供の様に目を輝かせ、好きな甘味や尊敬する師の話をする姿は微笑ましく、その表情の移り変わりを見るだけでも楽しく飽きる事はない。
それにそうしていると一年に一度のそれがまるで日常の事の様な、自分にとって当たり前の役目の様にすら思えて来るから不思議である。
ずっと話を聞いていたい。
どんな些細な出来事でも。
佐助はそんな風に思いながら川向こうから流れて来る彼の声を聞いている。
しかしどんな話でも聞きたいと願う佐助が一つだけ困る話題があった。
それは彼の話が一段落し、夜明けが近付く頃に投げ掛けられる。
「佐助。お前・・・まだ此方に来る気にはならぬのか?」
川を渡って来ないのかと言う問いかけ。
それが唯一佐助が戸惑う話であった。
青年は川越しではなくもっと近くで話したいといつも言った。
けれど佐助はそれに頷けなかった。
何故ならそれは到底成し得ぬ事だからだ。
「この川を渡るのは無理だよ」
二人を隔てる川はキラキラと輝き澄んで綺麗だけれど、その実はとても広く深く、流れも非常に早かった。
運動全般得意な佐助は泳ぎも普通以上には出来はするが、それでもこの急流を渡るのは非常に難しいと思われた。
渡れない。
それでなくとも渡ってはいけない。
この川は。
己は川の向こう、彼の傍には決して行ってはいけないのだと。
だからごめんねと佐助は毎年言うしかないのだが。
色好い返事が返らぬと青年はしょんぼりと肩を落とすので。
その姿を見るのが佐助は心苦しくて仕方がない。
それが佐助がこの話題を苦手とする理由であるが、こればかりはどうしようもない事だと。
聞き分けてくれと、年上の彼に対してまるで子供に言い聞かせる様に佐助は告げるのだが。
いつもはそのまま分かったと頷く青年が、今日はぐっと奥歯を噛みしめ佐助を見据えた。
そうして彼が発した言葉は。
「・・・分かった」
返された言葉はいつもと同じものだった。
しかし表情がそれを裏切っており佐助はヒヤリと嫌な汗が背を流れるのを感じた。
何だろう。
この覚えのある悪寒は。
そして予感は見事に当たる。
「ならば構わぬ!俺がそちら側まで行く!」
お前が来ぬなら俺が行くと。
青年は憤慨した様にそう叫ぶとザブザブと勢いよく川に足を踏み入れた。
その光景に佐助は大いに慌てた。
服を着たままの水泳が難しい事は知っていたし、加えて彼は色々と重そうな装備を身に付けている。
あんな格好でこの急流を泳ぐなど無謀にも程があった。
この夢の世界に死と言う概念があるのかは知れないが、例え夢であろうと彼がそうなる所など見たくはない。
彼が死ぬ場面なんて、もう二度と――
佐助は必死に止めるが青年は聞かず。
「お前の気持ちを汲もうと待ち続けてもう幾年・・・何か事情があるのだろうと思ったが…いい加減待ち飽いたわ!」
お前が来ぬなら迎えに行くと川を進む青年。
佐助はこうなる事を見越せず上手く宥める事が出来なかった己を悔いた。
彼の性格を考えれば十分有り得る行動だったのに。
否、まだ数度、それも一年に一度しか会っていないのだけれど。
必死に戻れと叫びながら、しかしそこで佐助はふとある事に気が付いた。
ずっと深いと思っていた川。
泳がなければ渡れぬ程と。
しかし青年が歩いてみれば川の水嵩は彼の膝上程までしかなく、流れも急流と言うには及ばないではないか。
両足で立てば普通に耐えられる程度のそれ。
目の当たりにした佐助は呆然とするしかない。
そんな馬鹿な。
己は何を見てこの川の姿を思っていたのか。
そんな佐助の疑問に答えたのは青年だった。
「お前がこの川を深く急だと、渡れぬと思っていたのはお前のただの思い込みだ」
佐助が川を渡れない、渡ってはいけないと強く思っていたから、それに相応しい姿に見えていたのだと彼は言った。
「この川は特別でも深くも速くもない。その辺にあるただの川と何も変わらぬ」
誰にでも渡れる、渡ってもいいものだと。
青年がきっぱりと言い切ればあんなに広く見えたそれが、ただの小川程度に川幅を変えたので佐助はただ驚くしかない。
青年も数歩しか進んでいない筈なのにもう半分程まで此方に来ており、あと僅かで川を渡りきってしまいそうだった。
手を伸ばせば届く。
届いてほしいと。
それを伝えるかの様に青年が此方に向かって手を伸ばす。
しかし水に足を取られたのか彼はバランスを崩してその場でよろける。
今の川の状態であれば転んだとて大した問題にはならぬだろう。
尻餅をついてせいぜい服が濡れる程度だ。
掠り傷も負いはしまい。
しかしそれでも佐助が足を踏み出したのは咄嗟の反応だった。
無意識に傾げる彼に手を伸ばして川の中を歩み進む。
川はやはり膝程までの深さしか無い。
青年がそう言ったから。
水は冷たいけれど、青年に指先が触れると体中が燃える様に熱が灯った。
その熱が心地好く逃さぬ様にと手を握ればその手を逆に引かれて佐助はたたらを踏む様に川の向こう岸へと渡らせられる。
岸に着けば佐助の手を握り締めたまま青年が得意気に笑って。
「やっと会えたな」
彼の笑顔は何度も見た。
しかし今は何だか無性に泣きたくなって、佐助は何かを告げようと口を数度開閉させた。
胸が詰まって声が出ない。
もどかしさに奥歯を強く噛む。
だがせめて、何を告げられずとも、せめて名を呼ぼうと再度口を開こうとした所で周囲の景色と意識がぼやけた。
彼と無理矢理引き離される感覚。
どうやら目覚めの時間が来たらしい。
あぁ、と佐助は溜め息を吐く。
彼に何も伝えられなかったと。
それは非常に悔しいが、しかし今の佐助は次彼に出逢えるのは一年後ではなく、もう直ぐ後の事だと知っていた。
だから逆らわずに落ちる様な感覚を受け入れる。
それでも最後に一言だけ。
「また後で!」
会いに行くからと叫べば笑顔の彼が頷き手を振ったのが見えた。
目が覚めると泣いていた。
不思議な感覚だった。
頭が酷くスッキリしている様な、逆に色々と溢れてゴチャゴチャしている様な。
相反するのにどちらも正しいこの感覚。
どうしたらいいか分からないが、ただ唯一はっきりしている気持ちは無性に一人の人間に会いたいと言う事だった。
己の一つ年下の幼馴染み。
彼に今すぐ会いたくて堪らない。
早朝のこの時間、彼は朝のランニングに出ている事を佐助は昔から知っていた。
故に必然的に会えるのは戻ってからになる。
しかし逸る気持ちを抑えられず佐助は着替えもそこそこに家を飛び出す。
彼のランニングのコースは熟知している。
逆送すれば何よりも早く会えるだろうと、そう思ったから。
そうして走りながら佐助は考えていた。
思い出せば府に落ちる事は山程あった。
時折飛び出る幼馴染みの意味の分からない発言。
まだ十数年しか生きていないのに昔を懐かしむ様な事を言ったり妙に達観した発言をしたり。
佐助の知らない佐助との思い出をさも当たり前の様に語り、佐助が首を傾げる事も多々あった。
今ならそれが何だったのか、佐助にも全て理解が出来る。
そしてもう一つ。
己の思いも府に落ちた。
何故あんなにも頑なに川を渡ろうとしなかったのか。
川の向こうにいた青年。
川を渡り彼の側へ、真田幸村の元に行くと言う事は己も全ての記憶を思い出すと言う事だ。
それは即ち佐助にとっては彼へのあの執着を思い出す事と同義となる。
思い出してしまえばもうただの幼馴染みとして適切な距離では在れなくなる。
“猿飛佐助”はそれが分かっていたのだ。
誰よりも傍で。
離れる事のないように。
思い出した己はそんな思いを抱き、それを成すべく動くだろう。
己がそう言う人間である事は自分自身が一番よく分かっている。
だから思い出さない様にと無意識に鍵をかけていた。
けれど――
朝靄の中、遠くに人影が見えた。
顔はまだぼやけて見えないがそれでも分かる。
幸村だ。
青年ではない。
まだ少年の、佐助の一つ下の幼馴染み。
けれど紛れもなく彼はつい先程まで話していた真田幸村その人だった。
佐助の姿を視界に収めた幸村は驚いた様に目を見張った。
当然だろう。
幼少期から共にいるが幸村の朝のランニングに佐助が付き合った事はこれまで一度も無かった。
「佐助?どうしたのだ?」
小さな川の橋の向こうで足を止めた幸村に佐助は呼び掛けようとした。
「ゆ・・・」
幸村、と。
いつもの通り幼馴染みへの呼び名を口にしようとして佐助はそれを止めた。
彼に今のこの気持ちを伝えるならもっと相応しい呼び名があった。
万感の思いを込めて佐助はそれを口にする。
「旦那」
懐かしいそれで呼ばれた幸村は一瞬呆けた顔をして、それから徐々に驚きに目を見開いた。
恐らく彼も気付いたのだ。
佐助が前世を思い出した事。
ずっと呼び続けていたその呼び名で。
彼はずっと待ってくれていた。
佐助が思い出す事を。
川向こうの彼と同様に、ずっと待ってくれていたのだ。
佐助が思い出すより前、佐助の覚えていない記憶を語った後に伺う様に此方を盗み見ていたのを知っている。
時折耐えきれなくなって何か思い出さぬかと聞かれた事もそう言えばあった。
七夕の短冊に当たり障りのない願いに隠して、「また会えます様に」と。
一見それと分からない願い事を人目につかない天辺に付けていた事も知っていた。
今思えば佐助の年に一度のあの夢は幸村の願いが天に届いたが故のものだったのかも知れない。
無意識に鍵をかけていた。
思い出してはいけないと。
今の彼を己の昏い執着に取り込んでしまわぬようにと。
けれど――
彼が望んでくれるなら。
そんな一年に一度の願いをかけてまで己が思い出す事を待ち望んでくれると言うなら。
もう迷いはすまい。
「待たせてごめんね・・・」
言えばぐっと顔を歪ませ堪える様に唇を噛んだ幸村が此方に駆けて来ようとするので、それを止めて佐助は今度は自分から足を踏み出す。
二度も迎えを待つ様では余りにも情けなさ過ぎるから今度は自分の方からと。
そして佐助は歩き出し、橋の上で漸く再会を果たした愛しい人を引き寄せ四百年ぶりに抱き締めた。
終
やっと、会えたね・・・
お題:「天の川は渡れない」で始まり、「そして私は歩き出す」で終わる物語
条件:5ツイート(700字)以内(失敗)
PR
この記事にコメントする
プロフィール
HN:
早和
性別:
非公開
自己紹介:
戦国BASARAの佐幸と真田主従と武田軍と西軍大好きなBASARA初心者です。
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。
P R