愛嬌、愛らしさ、懸命
静かな思い
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「小さい頃に抱っこ(触れ合い)が少なかった子供は依存性が強くなったり信頼関係を築く上での性格的な発達に影響が出る」。
――と言う話を職場で聞いて、幸村(弁丸)で考えたら切なくなりまして。
突発的に書いてしまいました。
・戦国
・佐幸(佐→幸?)
【愛憐に嗤う】
「見合いをしろと言われたのだ」
ある晩、突如部屋に来いと夜半に呼びつけられ主の部屋に参じた忍は、敷かれた布団の上で唐突に告げられ。
感情の篭らぬ声でそう、と答えた。
本当は、昼に主がその話を家臣としていた時も、その部屋の天井裏にいて全て聞いていたのだが。
馬鹿正直にそう言えば、何故昼間の時に助けなかったのかと臍を曲げる事は分かっていたので、そのまま知らない振りをした。
「嫁など、俺はいらぬと言っているのに・・・」
「うん」
「皆聞き入れてくれぬ」
「そうね」
短い相槌だけを返せば、幸村は口をへの字に曲げて、それからちゃんと聞いているのかと頬を膨らませた。
拗ねた顔は子供の頃と変わらないな、なんて事を考える。
そして、佐助の着物の袷を掴むと胸に頭突きとも言える強さで額を当て、そのままぐりぐりと擦り付ける仕草まで弁丸と呼ばれていた頃と同じだ。
佐助は呆れてため息をつき、宥めるようにその背をぽんぽんと軽く叩いた。
真田幸村が異性や色事が苦手だと言う事は、甲斐の国に留まらず他国にまで知れ渡っている事実である。
まあ、男女が共に並び立っているだけで、時も場所も構わずに破廉恥だ何だと騒ぎ立てれば話が広まるのも当然か。
同じ年頃の顔見知りには、その奥手さをからかいの種にされる事も多い。
しかし、家臣たちはそれを単なる笑い話にする事も出来ず、真田家の将来を案じて事ある毎に見合いの席を設けようとしたりする。
幸村の立場を考えれば仕方のない話だが、そのような日の夜は幸村は必ずと言っていい程佐助を呼びつける。
どうにも胸がざわついて上手く寝付けないのだそうだ。
「何故皆そんなに嫁を取らせたがるのだ」
「旦那も、もういい年頃だからねえ」
「同じ年頃で妻帯しておらぬ方などいっぱいいるではないか」
「まあそうだけど、さ」
政宗殿に慶次殿、長曾我部殿とて、と幸村が次々と挙げる名の人物は確かに幸村より皆年上であるが未だに独り身であった。
幸村の言い分は尤もに聞こえる。
しかし、彼らと幸村とでは大きな違いがある。
それは。
彼らは妻帯こそしていないが、女を知らぬと言う訳ではないだろう。
また、女性を忌避する事も無い。
対して幸村はそう言った事自体を苦手として遠ざける。
それ故、周りもその内に良い縁があればと待つには遠く、ついあれこれ口を出してしまうのだろう。
その焦りが幸村の苦手意識に更に拍車をかける悪循環となってしまっているのだが。
「皆、旦那の事心配してるんだよ」
それでも、家臣達の気持ちも分からなくはないので、そう言って宥めれば胸元から分かっているとくぐもった声が聞こえた。
そう。
幸村も言った言葉に嘘は無く、本当に分かってはいるのだ。
皆悪気があっての事ではない。
寧ろ真田家の事を思ってこそだと。
自分がそう言う立場の人間である事も分かっている。
だから、その場では表立って無碍に切り捨てず、後でこっそりこうして佐助を呼び出すのだ。
表に出せない、出してはいけない感情を持て余して。
そう思えば何とも憐れで――主に“憐れ”などと、不敬もいいところであるが――、佐助はそれ以上は宥めも諭しもせずにただ幸村の頭を撫ぜる。
(お武家さんは大変だねえ・・・)
暫くそうしていると幸村も気持ちが落ち着いたのか、すまぬ、と小さく詫びるので佐助は苦笑していいよと答えた。
愚痴を聞くぐらい、何と言う事はない。
寧ろ詫びなければならないのは自分の方だと心の中で思いながら。
どれだけそうしていたのだろう。
腕の中の身体が重みを増し、胸元から静かな寝息が聞こえてくると、佐助はようやっと頭を撫でる手を止めた。
(寝たかな)
そっと身を離すとあどけない寝顔。
それを確認して佐助は主の身体をそれまで座っていた布団の上に横たえた。
離れようとした一瞬指に服の裾を引かれたが、慰めるように手の甲を撫でればすぐに外れたのでそれはそのまま掛布の中に丁寧にしまった。
枕元に座って寝顔を改めて見る。
涙はないが、鼻頭が少し赤らんでいるのに気付いて佐助は何とも言えない気持ちになった。
幸村が色事や異性が苦手な理由を、皆はその奥手な性格からだと考えている。
単に恥ずかしがっているだけなのだと。
それは間違ってはいないのだが、佐助はそれだけが理由ではないと思っていた。
長年幸村の傍に居た佐助だけが気付いた真実。
幸村は幼少の頃、そのほとんどの時を一人きりで過ごしてきた。
実母は幸村――当時の弁丸――を生んで直ぐに儚くなり、義母は当然ながら違う女の子供を疎んだ。
父は少なからず可愛く思っていたようだが、なにぶん戦仕事が忙しく。
又兄も同様で、母の目がある故に中々構ってはやれなかったようだ。
世話役はいたが、弁丸が異能の持ち主だった為にそれを恐れて必要以上には近づこうとしなかった。
温かな腕に抱かれた事も、頭を撫でて貰った事も、手を握って貰った事すら殆ど無い。
殊女性に関しては、物心がついてからは接触と言える接触は一度も無いのではないかと思われる程だった。
そうして過ごし成長する内に、女性は幸村にとって未知のものとなってしまったのではないかと思うのだ。
民として見れば守るべき存在となるが、それは身近なものではない。
ならば幸村は男色なのかと問う者も稀にいるが、それはとんでもない間違いだ。
何分そのように人との接触が極端に少ないまま育ち元服して戦場に立つようになってしまった為、警戒心が更に強まり、付き合いの薄い者が不用意に近づけば敵と見做され攻撃を受けかねなくなってしまったのだ。
拳ならばいい方で、下手をすれば槍や手近な得物で一閃、なんて事もあり得る。
家臣達の中には幸村に取り入ろうとしたり、或いはまず色事に興味を持って貰おうと自らの家の小姓や陰間を寝所に送り込もうとした者もいたのだが。
もしそれが実行されていたら。
最も無防備となる寝所に突然知らぬ者が現れるなど、反動で確実に流血沙汰になっていた事だろう。
佐助は何度その計画と、そして攻撃しかけた幸村を止めた事か。
つまり、幸村にとっては性別に限らず他人に触れられる事、まず近づかれる事が未知であり恐怖――と言う程弱々しくはないのだが、警戒心を抱くと言う点では同じ感情と言えるだろう――となる。
寝所で抱き合う、など想像の範囲外であろう。
唯一の例外は信玄と佐助である。
この二人に関しては、懐に入られても不用意に攻撃したりはしない。
信玄に関しては別の意味で拳が出る事はあるが、それは警戒心からの事ではない。
しかし、それでも信玄へはその崇拝故に、佐助にするように触れたり抱きついたりすると言う事はない。
正真正銘、唯一は佐助だけだ。
身を護るだけでなく、ずっと傍に寄り添っていた佐助だけ。
警戒心の欠片も無く腕の中で眠るのも、その身体を横たえる為に首や腹などの急所に触れても起きる事無く穏やかに眠り続けるのも。
そう思うと、やはり佐助は主を可哀想だと思うのだ。
出生故に色に疎く鈍くなりながら、出生故にそれを強要されるなど。
そしてやはり出生故に他人との接触に常に警戒心が解けない事も。
その唯一の例外がこんな忍である事も。
(可哀想だ・・・)
しかし何よりは――
その忍が己が唯一と言う事に優越感を抱き、敢えて今まで何も教えようと、直させようとしてこなかった事こそが一番の幸村の憐れましい所ではないか。
(こんな不忠者が影だなんて。本当に旦那、可哀想・・・)
けれどそう思いはしても、それでも佐助はこれからも幸村にも家臣達にも何もせず、何も言わず。
ただこうして二人きりとなった幸村を甘やかすのだろう。
そうする事で幸村が苦しい気持ちを味わい続ける事になると知っていても。
(ごめんね、旦那・・・)
そう思えば申し訳なくて、佐助は慰撫するように眠る幸村の顔に触れる。
額から頭へ滑らせ、頬に触れると心地よさそうに頬擦りするする様子が一層愛しく憐れがましく、胸が詰まる心地で。
佐助は頬に口付け、泣き嗤った。
終
書いてみたら、幸村だけでなく佐助も中々になってしまいました^^;
あと、佐助と信玄とは別次元で筆頭も(幸村の)特別枠にいると思います。
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プロフィール
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早和
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自己紹介:
戦国BASARAの佐幸と真田主従と武田軍と西軍大好きなBASARA初心者です。
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。
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