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愛嬌、愛らしさ、懸命 静かな思い
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旧暦の幸村命日にもこっそりと。
こちらは戦国時代の設定で、死ネタ注意です。

「一秒だけ~」って、昔何かで聞いて頭に残っていたのですが、思い出せずにモダモダ。

  
  
  
  
  
  
  
  
  
・佐幸
・戦国
死ネタ注意





【一秒だけわがまま】




 
 
 
 
 
 
大事な人を守りたいと思うのは、誰しも皆同じだろう。
極自然な考え。
否、思いであると幸村は思う。
しかし、それなりの地位にある幸村にとって、その相手が自分よりも身分が上であるなら家臣として守るのは当然であるからいいとして、逆の場合は非常に困る所だと思う。
幸村自身は身分など気にしないが、周りはそうはいかない。
何より、その守りたいと思う相手が気にするのだからどうしようもない。

「全く!忍庇って怪我とか、有り得ないから!」

幸村の私室にて。
怪我の手当てをしながらぶつぶつと呟く佐助に、幸村はそっと息を吐いた。





数日前、越後との国境付近で小競り合いがあり、幸村は信玄の命を受けてその平定に向かった。
あくまで小競り合いであり上杉謙信が出る気配はない。
その為甲斐も信玄は動かず。
とは言え越後との国境は要所である。
そこで虎の若虎と名高き幸村が指名を受け、預かった幾つかの隊を引き連れ向かったのだった。
佐助の同行もあり、特に大きな問題も無く武田側の優勢で事は運んだ。
しかし、仕掛けてきた首謀者を捉え、もう戦も終わりを迎えようかという時にそれは起きた。
油断も、あったのかも知れない。
山間の地形を上手く活かし少し離れた木の影に潜んでいた者が、背中合わせで戦っていた佐助と幸村に向かって弓矢を射ったのだ。
恐らく狙われたのは幸村の方だった。
しかし、矢が向かったのは佐助の方で。
そして、それに気付いたのは幸村が先だった。
佐助は目の前の敵と切り結んでいた為に気付くのが遅れ、また身動きも出来ない状態だった。
そうと知れれば真っ直ぐこちらに向かう矢に、考えるよりも先に身体が動いた。
幸村は佐助を庇って左肩に矢を受けたのだった。



「ホント、あの時は心臓止まるかと思ったんだから」

その後、矢を射った輩は佐助自身の手によって屠られ、幸村の傷は佐助が直ぐに処置をした為命に別条は無かった。
また、戦の勝敗の行方も、ほぼ終盤に差し掛かっていた事もあり幸村が抜けても大きな損失にはならず、無事そのまま武田の勝利で事を終えた。
しかし、万事は上手くいったにも関わらず、幸村は帰ってから散々佐助に怒られ、一晩かけて説教をされ、 それでもまだ納まらないのか未だにこうして手当の度に小言を言われる。

「もう、金輪際こう言うのは無しにしてくれよ、旦那」

患部を消毒し、薬を塗り、包帯を巻きなおして佐助が言う。
毎日、朝晩の二度に施されるそれ。
その度に同じ事を言われては、既に耳タコだった。
最初の内は律儀に心配をかけた事に関しては謝ってはいたものの、今は反発心が湧いて殆ど無言の幸村だ。
それに、言われても今後絶対にしないとは約束出来なかった。
同じ場面に遭遇すれば、きっと自分はまた同じことをするだろうとは想像に難くないからだ。
それ故に、佐助もこうも何度も繰り返すのであろうが。

「旦那、聞いてる!?」

幸村が不満気に唇を尖らせていると、まるでお仕置きだとばかりに鼻を摘まれ、分かっているのかと念押しをされた。
これが主に対する態度だろうかと思わない事も無いが、そう言う佐助を好んでいるのも確かだ。
だからその事自体には言及しない。

「し、しかし、勝手に身体が動くのだから仕方がないではないか」
「仕方ないじゃなくて、意識的にそうするの!」

替わりに、鼻を摘まれたせいで些か不明瞭な声でそれでも必死に反論すれば、それは認めないとばかりに摘んだ指に力を込められる。
思わず悲鳴を上げてぎゅっと目を閉じる。
勿論佐助も本気ではいないが、それでも痛いものは痛い。

「やめぬかっ」
 
腹を立て、怪我をしていない方の手で佐助の手を振り払い、精一杯の反抗としてぷいと顔を背けた幸村であったが、そうすると佐助がため息交じりに頼むよ、と呟くのが聞こえて出鼻を挫かれてしまう。
先程までのものとは違う、切実さを含んだ声音。
思わず視線だけを佐助に戻す。

「今回は偶々軽傷で済んだけど、次はどうか分からない。もし急所に当たってたら・・・そうじゃなくても、毒でも塗られてたらどうすんのさ・・・」

あんた、死んでたかもしれないんだよ、と。
佐助が幸村の怪我をしていない方の肩に頭を乗せ、呟いた。

「あんたに死なれたら、俺様どうすりゃいいのよ・・・」

しかも庇われて、など。
そんなの絶望しかない。
 そんな事になったら正気でなどいられないと佐助は続けた。
 
「頼むから・・・あんなの、もう止めてくれ。俺様より先に死なないでよ・・・」
 
急に変わった声音で言われれば、幸村の反発心も削がれてしまう。
悲壮ささえ含んだ、佐助の願い。
滅多にないそれを、聞いてやりたいと思う心もない訳ではないのだ。
しかし、それでも素直には幸村は頷けない。
 
「俺とて、お前が死ぬところなど見たくない」

思わずぽろりと零れ出た。
それは偽らざる幸村の本音だった。
言ってから、結局はそれなのだと幸村は思う。
守りたいと思うのは、残されるのが嫌だからだ。
誰の為でもない。
他ならぬ自分の為の思いだ。
だから素直に聞くことが出来ない。
戦場で佐助に助けられる事も多々ある幸村ではあるが、その所為で佐助が死ぬなんて。
そんなのは耐えられない。
もしそんな事になったら、自分だってとても平静でなどいられない。
忍の役目も宿命も頭では理解しているけれど、心はそうはいかない。
一人残されるなど、冗談ではなかった。
想像するだけで震えが止まらなくなりそうだ。
子供の頃からの不安になった時の癖のようなもので、ぎゅぅと胸元に抱きついてグリグリと頭を擦り付けるようにすると、佐助が溜息を吐くのが聞こえる。

「あんたは主なんだから・・・大人しく守られててよ」
「その主が命じても、か」
「主より長く生きる戦忍が何処にいるってのよ」

しかし、佐助の方も気持ちは同じなのだろう。
どんなに幸村が粘っても、聞いてくれる気配は無かった。
普段ならば、幸村の大抵のわがままを最後には渋々でも聞き入れてくれるのに。
今回ばかりは折れてくれる気はないようだ。
ここまで言って駄目だと言うのなら、恐らく今後佐助がこの件において折れてくれる可能性はほぼ無いと言ってもいいだろう。
それと分かるぐらいには、佐助との付き合いは長い。
かと言って、自分だってそれは同じだ。
幸村は暫し悩む。
どうしたら、お互いが納得できるだろうか。
そして思いついて決意した。

「ならば仕方あるまい」

佐助に了承させる事が不可能なら、と幸村大きく息を一つ吐いて宣言する。

「何が何でも生き残って、二人で老衰で死ぬしかあるまいな」

幸村はそう高らかに謳った。
元より、これまで死ぬつもりで戦に臨んだ事など当然ないが、戦が殺し合いである以上その可能性が皆無ではないと言う事も幸村は理解していた。
何しろ、不死の者などいないのだ。
相手の力が優ればこちらが負けるのは当然だ。
しかし、こうして戦場での死にどちらも引く気がないのなら、妥協するには互いに何が何でも生き抜くようにするしか方法は無い。
その為にはもっと精進しなければならず、それもまた単なる根性論でしかないような気もしたが。
しかし、それでも幸村は本気だった。
そして佐助も、そんな幸村の気持ちを十分に分かっているのだろう。
だから、苦笑はしてもバカにはせず、幸村の描く未来に言葉をくれる。

「なら、年上の俺様の方が有利だわ」
「甘いぞ、佐助。俺の方が贅沢をしている分食生活が悪いからな」
「それ、自慢する所じゃないでしょ」

益々甘味を食するのが捗るなと笑えば、いつもと変わらないじゃないかと呆れられる。
いつの間にか佐助の気配も和らいで、流れる穏やかな空気に幸村はゆっくり目を閉じた。

「まあ、お互い気を付けて、長生きしてさ」
「うむ」
「一緒に、年取って」
「うむ」

お互いに望む未来の形。
そうして最後に、一緒に死ねたら重畳だ。
幸村は佐助の言葉を受け取り、重ねた。
しかし、その言葉は最後の最期で佐助に首を振って否定されてしまい、幸村は顔を上げた。
てっきり頷いて貰えるとばかり思っていた幸村としては肩透かしを食らった気分だ。
目をぱちくりと瞬かせる。

「それはダメ。」
「何がダメなのだ」
「言ったじゃん。旦那の死ぬとこ見たくないって」
「お前、それでは・・・っ!」
「だから・・・」

折角纏まりかけたと言うのに、また堂々巡りか。
不満をぶつけるように反論しようとした幸村であったが、その言葉は遮られ、強く抱き締められるのに思わず言葉を失った。
肩の怪我も忘れたような腕の強さは、まるで縋り付くようだ。
いつも冷静な佐助らしくない。
そうして、そのままの体制で佐助が願い請うたのは。
 
「一秒だけでいいから、俺様より長生きして・・・」

それは、まるで子供の様な言葉だった。
普段の彼からは想像もつかないような頼りない言葉。
そんな事を言われては、さしもの幸村も無碍に出来なくなってしまって困る。

「一秒か」
「うん」
「同時では、ダメか」
「一秒だけ後にして」

繰り返せば、あんまりにも聞き分けのない佐助に思わず苦笑が零れる。
これでは駄々をこねる幼子の様だ。
ここまでされては幸村も折れるしかない。
仕方ないなと溜息を一つ。
全ては受け入れられないけれど。
少しだけなら、譲歩してやってもいい。

 「一秒、だけだぞ」

思えば今まで佐助には散々面倒をかけてきた。
最後に一秒くらいなら、わがままを聞いてやってもいいかも知れない。
   
   
   
 
 
 
 
   


そして時は訪れる。
 
 
 
 
東軍対西軍。
天下分け目の戦場にて、一発の銃声が響き渡った。
そこは大勢の兵達が入り乱れ、更に銃声や怒号もあちこちから聞こえていたが、しかし幸村にはその音ははっきりと聞こえ、またその人々の合間を縫うように筒先をこちらに向けた男の姿も見えた。
目当を通して見据える男の瞳は、紛れも無く自分を捉えていた。
火薬の破裂する音が聞こえた後は周囲から音が消え、周りの動きも止まったかのように見えた。
まるで時間が止まったかのよう。
そんな中で幸村は、あぁ、自分は撃たれるのか、と。
その事をまるで他人事のように考えていた。
しかし、いよいよその黒い鉛の塊が当たると思った――瞬間。
目の前が急激に陽の光を失ったかのように陰り、幸村は目を見張る。
一瞬の黒。
それから、視界いっぱいに広がったのは、斑模様の緑色。
ドンッ、と強い衝撃があって、幸村はそのまま押されるように後ろへと倒れ込む。
視界を奪われたまま背を打ち付けて。
しかし、不思議と痛いとは思わなかった。
感覚が、何処か鈍くなっているようだ。
耳もそう。
倒れ込んだ瞬間、一瞬わぁっと周りがざわめき、それから徐々に音は戻ってきているようであるのに、その音はやはりどこか幸村には遠く感じられたままだ。
幸村様、と周囲の味方の兵達が己を呼ぶ声も、幸村には届かない。
届いたのはたった一言。

「・・・旦、那」

殆ど掠れたようなそれ。
自分以外には聞こえていないのではないかと言う程の、小さな小さな、その囁きだけ。

「さ、す・・・け・・・?」

呼ばれて、幸村は己の上に覆いかぶさったままの男を見上げた。
先程眼前にあった一面の緑は、今は一部がどす黒いような赤に染まっていて。
それが何かなんて、自分たちは知り過ぎていた。
 
 「よ、かった・・・」

見上げた幸村と目が合うと、彼は笑った。
何が、とは言わないまま。
無事で、とも言わず。
ただ良かったと。
そして、血と泥で汚れた手で幸村の髪を、頬を、慈しむように一度だけ撫で、それきり幸村に凭れて動かなくなる。
その口元には微かな笑み。

「・・・ばかもの・・・」
 
幸村は動かなくなった身体を受け止めて、泣きたいような気持ちでその背を抱いた。
やはりわがままなど聞くのではなかったか。
たった一秒でも、こんなに辛くて堪らないなんて。
おまけに。

「一秒だけと言ったのに。それまで・・・待っておらぬ、とは・・・」

一人で満足して先に逝ってしまって。
これでは約束破りも良い所だ。

「う・・つけ、め・・・」

一発殴ってやりたかったが、一人分にしては夥しい程の量の血に濡れた手は既に持ち上げるだけの力も残されておらず。
今や拳を握る事さえままならない。
佐助の身体に隠れて見えない、己の腹から流れ出る同じ赤いそれが、一緒に力も奪っているようだ。
これでは、殴るのは諦めるしかないだろう。
幸村は、血の混じる息を吐き出して身体の力を抜く。
悔しいが仕方ない。
替わりに、幽世では必ず殴ってやろうと心に決めて、幸村は静かに目を閉じる。
瞼の裏には走馬灯なのか、幼い頃から今までの自分と佐助の姿が浮かんでは消え。
ともすれば尚更思いは募った。
会いたい、と。
その為には早く追いかけなければ。
三途の川の畔ではどうか待っていてくれよ、と。
祈るような気持ちで幸村は願う。
 
溢れ出る記憶の断片の最期に、茜色の髪をたなびかせた先を逝く男の背中が見えた気がした。






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戦国BASARAの佐幸と真田主従と武田軍と西軍大好きなBASARA初心者です。
3→宴→2(プレイ途中)からの現在は4に四苦八苦中(笑)
幸村が皆とワイワイしつつ、佐助に世話を焼かれているのを見るのが何より好きです。
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